「治療を受けても、また買ってしまうのでは」と不安になるかもしれません。買い物依存症には心理療法で改善が報告された研究がある一方、どの方法が誰にどれほど役立つのかは、まだ分からない部分も残っています。診察で確かめることから心理療法や薬の根拠、借金への対応まで、何が分かっているのかを順に見ていきます。
1. 診察室では、何を確かめるのでしょうか
「今月はいくら買い物に使いましたか」。受診すると、まず金額を聞かれると思うかもしれません。もちろん支出も大事な情報ですが、金額だけでは、その人が何に困っているのかは見えてきません。同じ金額を使っていても、買い物にとらわれている時間や、自分で行動を抑えられる感覚は人によって違うからです。
精神科医Donald Blackが2007年に発表した総説では、いくつかの質問が紹介されています。買い物や支出について考え続けてしまうか、行き過ぎていると思っても止められないか、それによって強い苦痛や生活上の問題が生じていないかを確かめるものです。
たとえば「買うかどうか考えることに、どれくらい時間を使っていますか」「抑えようとしても難しいと感じますか」「買い物が原因で人間関係やお金の問題が起きていますか」といった問いです。診察で大切なのは、買い物の回数を数えることだけではありません。買い物に心と時間をどれだけ占められ、生活にどんな支障が生まれているかを知ることです。
もう一つ、見落とせない違いがあります。買い物へのとらわれが長く続いている場合と、ある時期に急に浪費が増える場合では、考えるべき背景が変わってきます。
たとえば双極性障害の躁状態では、気分の高揚や自分を大きく感じる考え、現実離れした計画などとともに、支出が増えることがあります。Blackの総説は、こうした時期に重なる浪費と、普段から買い物への関心や衝動が続いている状態を区別する必要があると述べています。「たくさん買った」という結果が似ていても、そこに至る経過を聞く意味は大きいのです。
衝動性に関連する状態として、双極スペクトラムやADHD、アルコールや薬物の使用の問題などにも目を向けます。過去に受けた精神科治療や服薬、身体の病気や治療歴を尋ねるのも、別の要因が関わっていないかを確かめるためです。ただし、こうした病気が見つかったからといって、その治療だけで買い物の問題が解決すると証明されたわけではありません。
最初の診察は、意志の強さを試す場ではありません。買い物を止められなかった回数よりも、いつ、どのように困り、何が重なっているのかを整理することが、治療を選ぶ出発点になります。
2. 認知行動療法では、実際に何をするのでしょうか
「認知行動療法」と聞いても、何をするのか想像しにくいかもしれません。買いたい気持ちにひたすら耐える訓練を思い浮かべる人もいるでしょう。しかし、買い物依存を対象に研究された認知行動療法(CBT)は、考え方の検討から金銭計画までを組み合わせた治療でした。
2006年に報告された集団CBTの研究では、週に1回の集まりを12週間続けるプログラムが使われました。組み合わされていたのは、買い物の問題を理解するための心理教育、買い物に結びつく考え方を振り返る「認知再構成」、金銭の計画、曝露という技法、そして集まりと集まりの間に取り組む課題です。
この構成が興味深いのは、治療の対象が「買ってしまう瞬間」だけに限られていない点です。自分の行動をどう理解するか、買い物に関わる考え方をどう捉え直すか、支出をどう扱うかまでが、一つのプログラムに入っています。治療者と話す時間だけで終わらず、次の集まりまでの課題も含まれていました。
曝露も、研究で使われた構成要素の一つです。買い物をしたくなる場面への向き合い方を扱う技法ですが、大切なのは、これが治療の中に位置づけられていたということです。自分一人で衝動の強い状況に飛び込む手順として紹介されているわけではありません。
では、実際に効果はあったのでしょうか。
2006年の研究では、集団CBTを受けた女性28人と、治療を待つ女性11人が比較されました。治療を受けた人たちでは、買い物を繰り返す頻度や商品への支出額が治療前より減り、その後の追跡でも改善が報告されました。買い物の問題を「気持ちの持ち方」だけで片づけず、行動や金額の変化として調べた点にも意味があります。
ただし、参加者はくじ引きのような無作為の方法で振り分けられたわけではありません。また、募集段階で32%、治療中にも28%の脱落が報告されました。改善した人がいたという結果と、その治療に参加して続けられるかという問題は、分けて見なければなりません。
2008年には、参加者60人を無作為に振り分ける研究も行われました。待機群と比べたこの研究で、12週間の集団CBTを受けた群には買い物に関する症状尺度の改善が示され、治療終了時だけでなく6か月後にも改善が報告されています。さらに、参加した回数は治療結果に関連していました。
こうした研究は、認知行動療法が買い物依存に役立つ可能性を示しています。一方で、研究の参加条件から外れた人もおり、集団という形式を続けるのが難しい人もいました。何を行う治療なのかと同じくらい、自分が参加し続けられる形なのかも大切な問いになります。
3. 集団療法が苦手なら、別の方法はあるのでしょうか
「ほかの人の前で買い物の話をするのは難しい」と感じる人もいるでしょう。研究されている方法は、集団で受ける認知行動療法だけではありません。
2013年の比較試験では、集団CBTに加えて、支援つきセルフヘルプという方法も調べられました。資料を読んで自分で課題に取り組みながら、10週間に5回、電話で支援を受ける形です。何の支援もなく一人で頑張る方法とは違い、取り組みを支える人がいました。
結果は少し意外かもしれません。症状尺度で「信頼できる改善」と判定された人の割合は、集団CBTで50%、電話支援つきセルフヘルプで45%でした。どちらも治療を待っていた群より改善が見られました。
ただし、対象となったのは集団CBTが22人、セルフヘルプが20人という小さな集団です。数字が近いからといって、二つの方法が誰にとっても同じ効果を持つと証明されたわけではありません。研究では脱落もありました。
それでも、治療の強さや集まりの回数が多ければ必ずよいとは簡単に言えない結果です。2016年のレビューも、集団療法を続けられるか、本人に合っているかを重視しており、オンラインでの買い物が増える状況に合わせた治療研究も必要だと指摘しています。
4. 「効果が大きい」という数字を、どう読めばよいのでしょうか
治療研究の記事で「大きな効果」という言葉を見ると、思わず安心したくなります。けれども、その数字が何と何を比べた結果なのかを知ると、見え方が変わってきます。
たとえば、治療前に強く困っていた人が、治療後にはかなり楽になっていたとします。これは大切な変化です。ただ、その人が治療を受けなかったらどうなっていたかは、前後の比較だけでは分かりません。治療を受けた人と、受けていない人や別の支援を受けた人を比べる研究が役立つのは、そのためです。
2016年の系統的レビューでは、心理療法の研究を合わせると大きな改善が示されました。しかし、検討された研究には比較相手を置かないものが多く、治療前後の変化から計算した効果の大きさが中心でした。さらに、小規模でも好結果が出た研究ほど公表されやすく、改善の程度が実際より大きく見えている可能性も指摘されています。
もう一つの鍵は、「何を改善と呼んだか」です。CBSは買い物に関する行動や気持ちを捉える尺度で、YBOCS-SVは買い物について考える時間、苦痛、生活への支障、行動を抑える難しさなどを点数にします。点数が下がったことは重要ですが、それだけで借金が整理されたとも、生活の困りごとがすべて消えたとも言えません。
途中で治療をやめた人がどれくらいいるか、治療後どのくらい長く追跡したかも読みどころです。2016年のレビューは、小規模な試験、評価方法のばらつき、短い追跡期間を課題として挙げました。
「治療後に良くなった」と「その治療だから良くなった」は、別々に確かめる必要があります。 研究を疑ってかかるためではなく、期待できることと、まだ約束できないことを見分けるための視点です。
5. 薬で買い物依存を治療できるのでしょうか
「薬があるなら、まず飲んでみたい」と思う人もいるかもしれません。買い物の衝動がつらいとき、薬に期待を寄せるのは自然なことです。ただ、買い物依存そのものへの薬の効果を調べた研究は、結果がそろっていません。
初期の研究では、薬を飲み始めたあとに買い物に関する症状が改善した例が報告されました。たとえばフルボキサミンを使った小規模研究では、症状尺度が改善しています。しかし、比較する集団のない研究では、改善の原因が薬なのか、それ以外の影響なのかを判断しにくくなります。
その後、フルボキサミンと偽薬を比較する試験が行われました。2000年に報告された24人の試験では、薬の群が偽薬の群より優れているという結果は得られませんでした。吐き気、不眠、意欲の低下、眠気なども、薬を使った群で多く報告されています。別の42人を対象とした試験でも、買い物による苦痛などで明確な差は確認されませんでした。最初の好結果が、より厳密に調べても再現されるとは限らなかったのです。
シタロプラムとエスシタロプラムについては、まず全員に薬を使い、改善した人を薬の継続群と偽薬群に分ける研究が行われました。シタロプラムでは継続を支持する結果が見られた一方、エスシタロプラムでは同じような結果になりませんでした。薬を飲んでいると分かっている最初の段階で良くなっていても、その後の比較で薬特有の効果が示されるとは限りません。
トピラマート、ナルトレキソン、メマンチンにも初期的な研究報告がありますが、2016年のレビューは、より多くの人を対象にした厳密な試験が必要だと評価しました。少人数で改善が見られたという結果は、可能性を示すものではあっても、処方の効果を確定するものではありません。
心理療法と薬を十分な規模で直接比較した研究も限られています。2016年のレビューの著者らは、研究の質を踏まえ、まず心理療法を検討する立場を示しました。ただし、それは薬が絶対に役立たないという結論ではありません。
現時点で、買い物依存そのものに対して日本で承認された薬はなく、有効性が確立した薬物療法もありません。一方、診察では双極性障害やADHDなど背景にある状態も確かめます。買い物依存への薬の根拠と、併存する病気について治療を考えることを混同しないことが大切です。
6. 治療を始めても、借金の問題は残っています
買い物の衝動について治療を始めても、すでに届いている請求書が消えるわけではありません。反対に、借金の返済方法が決まっても、買い物のことが頭から離れないつらさがその日からなくなるとは限りません。ここには、似ているようで役割の違う二つの問題があります。
2007年のBlackの総説では、買い物依存のある人が深刻な金銭問題を抱えることがあり、金銭面の相談や財産管理が助けになる場合があると述べられています。ただし、支出を管理する仕組みを作っても、買い物に心を奪われる状態そのものが変わるとは限りません。財布からお金が出ていかないことと、買いたい気持ちに振り回されなくなることは、同じ変化ではないからです。
医療機関では、買い物へのとらわれや苦痛、行動を抑えにくい状態を評価し、心理療法などを検討します。一方、借金をどう整理できるかは、法律や契約の問題です。心理療法がうまく進んだからといって債務が自動的に減るわけではなく、返済の問題だけを扱っても治療の代わりにはなりません。両方で困っているなら、どちらか一方が片づくまで待つ必要はないのです。
借金を家族に打ち明けたとき、「家族なのだから払わなければ」と思う人もいるかもしれません。法テラスの説明によれば、家族であるという理由だけで、本人の借金を返済する義務が生じるわけではありません。ただし、保証人になっている場合や、夫婦の生活に必要な支出として生じた債務などは扱いが異なります。誰が契約したのか、何のための支出なのかによって判断が変わるため、具体的な事情は法律の専門家に確かめることが大切です。
法テラスの資料は、依存の問題が背景にある借金を家族が肩代わりすると、問題が長引く可能性にも触れています。返済を手伝った家族を責めるための話ではありません。目の前の請求を何とかしたい、本人を守りたいという思いがあっても、支払いを引き受けることがそのまま回復への支援になるとは限らないということです。本人はもちろん、支える人にも、判断を一人で背負わないでほしいところです。
借金への対応は、弁護士や司法書士に相談できます。治療や回復に関する相談先としては、保健所や精神保健福祉センターも法テラスの資料に挙げられています。医療と債務の相談は、どちらが先という一列の順番ではありません。買い物の問題を診てもらいながら、借金については別の専門家と整理していくこともできます。
請求や返済のことで追い詰められているなら、すべてを一度に説明したり、すぐに解決策を決めたりしなくても構いません。今、自分を傷つけそうなほど苦しい場合は主治医に連絡し、差し迫った危険があるときは119番に助けを求めてください。借金の額によって、助けを求める資格が決まるわけではありません。
7. 自分に合う治療を、どう選べばよいのでしょうか
治療を探すときの出発点は、「買い物が止まらない」という結果のほかに、どんな時期に起こり、何が生活を苦しくしているのかを見てもらうことです。躁状態など別の背景がないかを確かめることも、治療を選ぶ前の大事な作業です。
心理療法を検討するなら、どのような内容か、集団での参加が必要か、続けられそうな形式かを尋ねてみてください。研究で使われた症状の点数に加えて、買い物の行動や生活への支障をどのように振り返るかも、治療を考える手がかりになります。
借金があるなら、その相談も別に進められます。治療を受けると決心してからでなくても、「買い物のことで困っているけれど、何から話せばよいか分からない」という言葉から始めて構いません。
よくある質問
Q. 買い物依存症は薬だけで治せますか?
薬を使ったあとに改善した研究はありますが、偽薬との比較で効果が確認されなかった研究もあり、結果は一致していません。2016年のレビューでは、買い物依存そのものに対する薬の有効性を確かめるには、さらに厳密な研究が必要とされました。背景に別の精神疾患があるかを調べることと、買い物依存への薬の効果を判断することは分けて考えます。
Q. 集団での認知行動療法が苦手でも、治療を受けられますか?
集団CBTだけでなく、資料と課題に電話での支援を組み合わせた方法も研究されています。2013年の小規模な試験では、どちらにも改善が見られました。ただし、同じ効果が確定したわけではなく、日本で受けられる支援の形は実施先に確認する必要があります。
Q. 買い物依存でできた借金は、家族が返さなければなりませんか?
家族というだけでは、原則として本人の借金を返済する義務はありません。ただし、保証人である場合や夫婦の日常家事債務など、例外があります。家族だけで抱えず、具体的な契約については弁護士や司法書士に相談できますし、買い物の問題への支援も別に考えていけます。
参考にした資料(要約・再構成。原文の転載ではありません)
- Hague B, Hall J, Kellett S. Treatments for compulsive buying: A systematic review of the quality, effectiveness and progression of the outcome evidence. Journal of Behavioral Addictions. 2016.
- Black DW. A review of compulsive buying disorder. World Psychiatry. World Psychiatric Association. 2007.
- Tasman A ほか編. Psychiatry, Third Edition. John Wiley & Sons. 2008. 第80章(Daphne Simeon・Heather Berlin)。
- 日本司法支援センター(法テラス)『やさしい日本語による債務整理の説明』Q12「家族の抱える債務を支払う義務はありますか?」。