福岡県春日市須玖北4丁目34 2階
休診日: 水曜・木曜・日曜・祝日

眠りたいのに目がさえてしまう夜のために、クービビックという薬を提案されることがあります。2024年に国内で発売された比較的新しい睡眠薬で、脳の「目を覚ましておく働き」に作用するのが特徴です。ただ、新しい仕組みだからほかの薬より強い、あるいは安全だと考えるのは早計です。まずは何を確かめた薬なのかを、数字とともに見ていきましょう。

眠りを押し込むより、覚醒を静める

「疲れているのに眠れない」という感覚は、どこか矛盾しているように思えます。けれども睡眠には、眠りに向かわせる働きだけでなく、起きている状態を保つ働きも関わっています。クービビックが働きかけるのは後者です。

脳内で覚醒を支える物質の一つに、オレキシンがあります。オレキシンは脳のさまざまな領域に働きかけ、目覚めた状態を促し、安定させています。その作用を受け取るのがOX1RとOX2Rという二種類の受容体です。クービビックの成分であるダリドレキサントは、この両方を遮断して覚醒を促す信号の働きを抑え、眠りへ移りやすくすることを目指した薬です。

この仕組みから「デュアルオレキシン受容体拮抗薬(DORA)」と呼ばれます。一方、従来から使われているベンゾジアゼピン系や、ゾルピデム、ゾピクロン、エスゾピクロンなどの非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、ベンゾジアゼピン受容体を介してGABA神経系に作用します。同じ不眠症の治療でも、働きかける場所が違うわけです。

ここで区別したいのは、作用する場所の違いと効き目の優劣は別の話だということです。今回確認できた資料には、クービビックがこれらの薬より一律に強い、あるいは安全だと結論できる通常用量での直接比較はありません。薬の新しさを「ランキング」に置き換えるより、まずクービビック自身の成績を確かめるほうが、飲む人にとって役立ちます。

「新しい薬」は、いつ登場したのでしょうか

クービビックには25mg錠と50mg錠があります。この数字はダリドレキサントそのものの量で、原料として使われるダリドレキサント塩酸塩の重量とは異なります。製造販売元はネクセラファーマジャパン、販売元は塩野義製薬です。

日本では2024年9月24日に不眠症の薬として承認され、同年11月20日に薬価基準へ収載されました。実際に販売が始まったのは12月19日です。「承認された日」と「薬局などで使われ始めた日」は同じではありません。

ただし、発売年が新しいからといって、不眠の原因が一つに解明されたわけでもありません。眠りには身体面と心理面の両方が関係していて、脳内物質の過不足だけで不眠を説明するのは単純化しすぎです。クービビックは、その複雑な仕組みのうちオレキシンによる覚醒に働きかける選択肢だと理解すると、期待できることと期待しすぎないほうがよいことを分けやすくなります。

「10分早く眠れる薬」と読んでよいのでしょうか

効き目を知るには試験の数字が役立ちますが、読み方には少しコツがあります。

日本で行われた第Ⅲ相試験には、不眠症の成人490人が参加しました。対象は、少なくとも12週間にわたり週3夜以上、寝つくまで30分以上かかり、寝ついた後も30分以上起きていて、睡眠時間が6.5時間以下といった条件を満たす人たちです。睡眠時無呼吸症候群や、治療を要する不安障害・うつ病などがある人は、主な除外対象でした。つまり、さまざまな背景を持つ不眠の人を全員まとめて調べた試験ではありません。

参加者は50mg、25mg、偽薬(プラセボ)のいずれかを就寝前に4週間服用しました。50mgの群では、4週時点の「本人が記録した総睡眠時間」の変化がプラセボ群より平均20.30分大きくなりました。「眠りに入るまでの時間」の変化も、プラセボ群より平均10.66分短くなりました。どちらも統計学的に有意な差でした。

ここでいう「10.66分」は、飲んでから約11分で眠れたという意味ではなく、飲む前と4週後の変化を比べたときのプラセボ群との差が約11分だったという数字です。総睡眠時間の20.30分も、飲んだ人が全員20分ずつ長く眠れたという意味ではありません。数字は薬の効果を測る手がかりですが、一人の夜の経過をそのまま予言するものではないのです。

25mgでも、4週時点のプラセボとの差は総睡眠時間で9.23分、入眠までの時間で7.16分の短縮でした。こちらは副次評価項目で、統計学的な検定結果も「名目上のp値」として報告されています。50mgの数字を単純に半分にした結果ではなく、25mgとして確かめられた成績です。

25mgが処方されるのは、効果が弱いからですか

クービビックの成人での通常用量は、1日1回50mgです。国内外の試験を踏まえ、50mgのほうが25mgより高い効果を期待でき、安全性も許容できると判断されて決まりました。一方で25mgにも効果が確認されており、患者さんの状態に応じて、医師が25mgを選ぶことがあります(電子添文の記載)。中等度の肝機能障害がある場合や、CYP3Aを中程度に妨げる薬と併用する場合も1日25mgとされています(後の飲み合わせの節を参照)。最初から25mgが処方されても、治療を控えめに扱われているという意味ではありません。

睡眠薬の目標を「昨夜、何分眠れたか」だけで考える必要もありません。不眠症の治療では、日中の過ごしにくさがどう変わるかも大切です。海外の試験では、50mgで日中の眠気を評価するスコアにプラセボとの差が示されましたが、25mgでは同じ結論になりませんでした。夜の数字と昼間の実感は、分けて見ておきたいところです。

「寝る直前」は、思ったより具体的です

飲み方でまず覚えておきたいのは、寝る準備を終えてから服用することです。処方された量を1日1回、コップ1杯程度の水かぬるま湯で飲みます。服用後に片づけや仕事を始めるための薬ではありません。いったん眠った後に夜中に起きて仕事などをする予定がある日には、服用しないという指示もあります。

もう一つ関係するのが、夕食や夜食との距離です。食事と一緒、または食べ終わってすぐの服用は避けます。外国人の健康な成人男性を対象とした試験では、高脂肪・高カロリーの食事の後に飲むと、空腹時に比べて血中濃度が最も高くなる時刻が平均1.28時間遅くなり、その最高濃度も15.6%低くなりました。薬が体内に取り込まれる総量に大きな変化はありませんでしたが、効き始めが遅れる可能性があるためです。

夜食を食べたから薬が無効になるという話ではなく、寝つくために飲んだ薬の働きが期待した時刻に現れにくくなることが問題です。いつ食べて、いつ寝るつもりなのかを含めて、服用のタイミングを考えます。

飲み忘れたときに、遅れた分を取り戻そうとして2回分をまとめて飲んではいけません。患者向けのガイドでは、翌晩の就寝時に通常の量を飲めると説明されています。夜中に目が覚めてからその日の分を追加するという使い方でもありません。

「半減期が短い」は、どういう意味でしょうか

クービビックは、翌朝までの影響を少なくすることを目指して開発されました。その説明でよく出てくる数字が「半減期」です。これは薬の血中濃度が半分になるまでの時間を指し、眠りが続く時間そのものではありません。

日本人の健康な成人に50mgを繰り返し投与した試験では、4日目の半減期は非高齢者で6.60時間、高齢者で8.87時間でした。血中濃度が最も高くなるまでの時間は、それぞれ1.00時間、1.25時間です。繰り返し飲んだ場合の血中濃度の蓄積を調べた値は、いずれも1に近い結果でした。

ただし、「約1時間で必ず眠れる」「約7時間で薬が完全に切れる」と読み替えることはできません。血液の中で薬がどう動くかと、眠りに入る時刻や翌朝の状態は、同じ指標ではないからです。確認できた原典にも、作用が何分後に現れ、何時間続くかを確定する資料は示されていません。

翌朝の運転は、数字だけでは判断できません

「翌朝に残りにくいように開発されたのなら、朝は運転してもよいのでしょうか」。ここは、開発の狙いと実際の注意を分けて考える必要があります。

海外では50〜79歳の健康な成人60人を対象に、就寝前の服用から9時間後の運転能力をシミュレーターで調べています。50mgを初めて飲んだ翌朝は、影響が事前に定めた基準より小さいことを検証できませんでした。4日間続けて飲んだ翌朝には、試験上、その基準を満たす結果が得られました。

一方、国内外の不眠症患者を対象とした試験では、翌朝の持ち越し効果を示す明確な傾向は確認されませんでした。調べた人も測り方も違い、眠気の自覚と運転時の反応も同じものではないので、この二つの結果は矛盾しているわけではありません。

そのため電子添文では、翌朝以降に眠気や注意力・集中力、反射運動能力の低下が起こりうるとして、自動車の運転や危険を伴う機械操作をしないように注意しています。半減期の短さや「今朝は眠くない」という感覚だけで、この注意がなくなるわけではありません。

眠気のほかに、何が起こりえますか

国内の4週間の試験で、薬との関連があると判断された眠気(傾眠)は25mg群で3.7%、50mg群で6.8%でした。偽薬の群でも1.8%に報告されています。副作用全体では25mg群7.4%、50mg群11.1%、偽薬群8.5%でした。これはその試験での割合で、すべての服用者に同じ頻度で起こると決まっているわけではありません。

電子添文には、頭痛、ふらつくようなめまい、だるさ、疲労感、悪夢、吐き気なども挙げられています。眠りに関連した少し意外な現象として、金縛りのように体を動かせなくなる睡眠時麻痺、幻覚、普段と違う夢、夢遊や寝言などの睡眠中の行動も記載されています。発疹やじんましん、腫れなどの過敏症にも注意が必要です。

金縛りは、国内4週間の50mg群で162人中1人、52週間の50mg群で102人中1人に報告されました。頻度は高くありませんが、薬との関係が考えられるため、発売後も注意して調べられる項目になっています。怖い夢や金縛りがあったときも、いつ起きたか、翌朝どうだったかを診察で伝える材料にできます。

1年間の試験では、何が分かったのでしょうか

日本では、154人が25mgまたは50mgを52週間服用した試験も行われています。副作用は25mg群で19.2%、50mg群で24.5%に報告され、眠気はそれぞれ11.5%、13.7%でした。50mg群では倦怠感が5.9%で、ほかに悪夢や睡眠時麻痺などもみられました。

この試験で重篤な副作用は報告されず、翌朝の持ち越し効果も認められませんでした。ただし、参加者も薬を飲んでいることが分かる「非盲検」の試験で、偽薬の群と比較したものではありません。1年間のデータは参考になりますが、「長く飲めば安全が保証される」という答えにはなりません。

眠りが改善したときには、薬を続ける必要があるかも治療の中で確かめていきます。量は自己判断で変えず、寝つきだけでなく日中の眠気や過ごしやすさも診察で伝えてください。

飲み合わせで、眠りへの作用が変わることがあります

クービビックを処方されるときに普段飲んでいる薬を確認するのには、理由があります。ダリドレキサントは主にCYP3Aという酵素に関係する薬の影響を受け、組み合わせによって血中濃度が上がったり下がったりするためです。「睡眠薬同士でなければ関係ない」とは限りません。

例えば、クラリスロマイシンなど一部の抗菌薬や、イトラコナゾールなど一部の抗真菌薬は、併用できない薬に含まれます。リトナビルを含む薬なども同様です。これらは薬の分解を強く妨げ、クービビックの副作用を強めるおそれがあります。ジルチアゼム、ベラパミル、フルコナゾールなど、分解を中程度に妨げる薬と併用する場合は、服用できるかを慎重に判断し、使う場合はクービビックを1日25mgとします。

反対に、リファンピシンやカルバマゼピンなどはクービビックの血中濃度を下げ、効き目を弱めるおそれがあります。クービビックが別の薬の血中濃度を上げる可能性もあるため、飲み合わせの確認は一方向ではありません。ほかに、中枢神経の働きを抑える薬と重なると作用が強まる可能性があり、飲酒にも注意が必要です。

肝臓の働きも重要です。重度の肝機能障害がある人には使えず、中等度の場合は1日25mgとされています。過去に成分へのアレルギー反応があった人も服用できません。新たに薬が増えるときには、睡眠薬を飲んでいることも伝えてください。

「依存しない新薬」と考えてよいのでしょうか

電子添文では、クービビックは「習慣性医薬品」に分類されています。オレキシンに作用するという特徴だけで、「習慣性の心配がない」とは言い切れません。

薬を好ましく感じる程度を調べた試験では、ダリドレキサントのどの試験用量でも、偽薬より薬物嗜好性が高い結果でした。ただし対象は娯楽目的の薬物使用経験がある健康な成人で、不眠症の人が通常の治療として飲んだ場合の乱用リスクをそのまま示すものではありません。企業のリスク管理計画でも、乱用の可能性は今後さらに調べる項目とされています。

国内4週間の試験では、服用終了後に不眠が反動で悪化する徴候や、退薬症候の徴候はみられませんでした。それでも、短期間の試験で見られなかったことと、誰でも長期間問題なく使えることは別です。「新しいから増やしても大丈夫」「効かないから追加しよう」と判断する根拠にはなりません。

妊娠中や授乳中なら、同じ判断になりますか

妊娠中に使った人の経験はまだ少なく、妊娠している、またはその可能性がある場合は、治療による利益が危険性を上回ると判断されたときに使う薬です。授乳中については、成分が人の母乳に移ることが確認されています。授乳を続けるかどうかは、治療の必要性と母乳栄養の利益をあわせて検討します。

「薬を飲むなら授乳を諦めるしかない」と急いで結論を出す必要はありません。妊娠や授乳の状況を処方する側と共有し、どんな選択ができるかを整理するところから始められます。

分からないことが残っているのも、大切な情報です

発売後には、実際の不眠症患者を対象に、眠気、睡眠中の普段と違う行動、金縛り、薬物乱用の可能性、自殺念慮・自殺行動などを調べる使用成績調査が計画されています。臨床試験で確かめたことと、日常の診療でこれから集める情報には違いがあります。

ほかのオレキシン受容体拮抗薬についても、同じ仕組みだから効果や副作用も同じとは言えません。

処方された後に見ておきたいのは、夜の睡眠だけではありません。翌朝の眠気や夢の変化、昼間の過ごしやすさも、薬が自分にどう作用しているかを考える手がかりです。思うように眠れなかった夜も、結果を責めず、次の診察で一緒に振り返る材料にしてよいのです。

よくある質問

Q. ほかの睡眠薬と一緒に飲んでもよいですか?
クービビックと別の不眠症治療薬を併用したときの有効性と安全性は、まだ確立されていません。すでに睡眠薬を使っている場合は、薬の名前と飲んでいる量を処方する側に伝え、自己判断で追加しないようにしましょう。

Q. 飲み忘れたり、多く飲んでしまったりしたら?
飲み忘れた分を取り戻そうと、2回分を一度に飲んではいけません。翌晩は通常どおりの量を服用できます。誤って多く飲み、強い眠気や筋力低下などが重なった場合は医師に連絡し、急を要する事態では119番に連絡してください。

Q. 眠れた日が増えたら、飲み続けなくてもよいですか?
電子添文では、症状が改善したら服用を続ける必要があるかを検討するとされています。眠れた日数だけでなく、翌朝の状態や日中の過ごしやすさも伝えると判断に役立ちます。量を減らしたり中止したりする時期は、診察で決めていきます。

参考にした資料(要約・再構成。原文の転載ではありません)

  • 『クービビック錠25mg/50mg 電子添文』ネクセラファーマジャパン・塩野義製薬、2026年10月改訂(第5版)。
  • 『クービビック錠25mg/50mg 医薬品インタビューフォーム』ネクセラファーマジャパン・塩野義製薬、2026年10月改訂(第5版)。
  • 『クービビック錠25mg/50mg 患者向医薬品ガイド』ネクセラファーマジャパン・塩野義製薬、2024年10月。
  • 『クービビック錠25mg・50mgに係る医薬品リスク管理計画書』ネクセラファーマジャパン、2026年10月21日提出。

このテーマの記事を探す

執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

WEB予約