この記事でわかること
- PMDDとPMSの違い(生理前の「ちょっとつらい」と「日常生活に支障が出るほどつらい」の境目)
- PMDDでよくみられる症状のチェックリスト
- 精神科・心療内科と婦人科、どちらに相談すればよいか
- 「早めに相談した方がよいサイン」と受診前に記録しておくと役立つこと
- 治療の選択肢(薬・漢方・生活習慣など)
- よくある疑問とその答え(FAQ)
生理前だけ、別人みたいになる
「なぜか生理前になると、ひどく落ち込む」
「些細なことで泣いたり怒ったりして、後から自己嫌悪になる」
「消えてしまいたい気持ちになる。でも生理が来ると、嘘みたいに楽になる」
こういう経験が、毎月繰り返されていませんか。
生理前にだけ現れ、生理が始まると和らぐ強い気分の変化。これは「弱い性格」でも「我慢が足りないだけ」でもありません。PMDD(月経前不快気分障害)という、治療の対象になる状態かもしれません。
この記事では、PMDDとはどんな状態か、どこに相談すればよいのかを、なるべくわかりやすく伝えます。
PMDDとは
PMDD(Premenstrual Dysphoric Disorder)は、月経前の黄体期(生理が来る1〜2週間ほど前から)に、気分や感情に強い不調が現れ、生理が始まると改善していく状態です。
2013年に改訂されたDSM-5(アメリカ精神医学会の診断基準)で、うつ病などと同じ「抑うつ障害群」の一つとして正式に位置づけられました。
有月経女性の約5%に認められるとされており、決して珍しい状態ではありません。ただ、日本では認知度がまだ低く、長年ひとりで悩んでいる方も少なくありません。
症状の原因はまだ解明されていない部分もありますが、排卵後から生理前にかけての性ホルモンの変動が関係していると考えられています。初経前・妊娠中・閉経後には症状が出ないことが、その根拠の一つです。
PMSとPMDDの違い
| PMS(月経前症候群) | PMDD(月経前不快気分障害) | |
|---|---|---|
| 主な症状 | 身体的症状・軽〜中等度の精神症状 | 強い精神症状が中心(怒り、落ち込み、不安など) |
| 日常生活への影響 | やや影響が出ることも | 仕事・家事・人間関係に明らかな支障が出る |
| 頻度 | 多くの女性が何らかの症状を経験 | 有月経女性の約5%程度 |
| 位置づけ | 婦人科的な診断区分が中心 | 精神医学上の独立した疾患(DSM-5) |
簡単に言うと、PMS は「生理前につらい症状が出る状態」全般を指し、PMDD は「精神的な症状が特に強く、生活への支障が大きい状態」です。
ただし境界は明確ではなく、「自分がどちらかわからない」という方も多いです。診断は医師が行いますので、気になる方はまず相談してみてください。
PMDDでよくみられる症状
以下の症状チェックリストは、診断ツールではありません。受診前に自分の状態を整理する参考として使ってください。
精神的な症状
- 感情の波が激しく、涙もろくなる
- 急に怒りが爆発して、後から後悔する
- 強い落ち込みや絶望感が出る
- 「消えたい」「死んでしまいたい」という気持ちになる
- ひどい不安感や緊張感が続く
- 自分を責める考えが止まらない
- 誰ともかかわりたくなくなる
行動・生活への影響
- 普段は好きなことが楽しめなくなる
- 集中力が落ちて仕事や家事が手につかない
- ひどく疲れやすくなる
- 甘いものなど特定の食べ物が無性に食べたくなる
- 眠れなくなる、または眠りすぎる
身体的な症状
- 乳房が張って痛い
- むくみや体重増加を感じる
- 頭痛や関節の痛み
これらの症状が「生理前だけ」現れ、「生理が始まると和らぐ」パターンがあることが、PMDDの特徴です。
このチェックリストに当てはまる項目が多くあったとしても、それだけで診断はできません。似たような状態は他の病気でも起こることがあるため、判断は必ず医師に委ねてください。
早めに相談した方がよいサイン
以下に当てはまる場合は、なるべく早めに医療機関への相談をおすすめします。
- 「死にたい」「消えたい」という気持ちが生理前に繰り返し出てくる
- 感情のコントロールができなくて、家族や職場との関係に深刻な影響が出ている
- 毎月、何日かは仕事や家事がまったくできない状態になる
- 衝動的に自分を傷つけたくなることがある
- 不安や落ち込みが生理が終わっても残っている
特に「死にたい気持ち」については、怖がらせたいわけではありません。ただ、PMDDで希死念慮が出ることは珍しくなく、一人で抱えていると消耗します。そのような気持ちがあるときほど、早めに話せる場所につながってほしいと思います。
精神科・心療内科と婦人科、どちらに相談すればよいか
悩む方が多いポイントです。結論から言うと、「どちらに相談してもよい」というのが正直なところです。
ただ、症状の中心が何かによって、相談しやすい場所は異なります。
精神科・心療内科で相談しやすい症状
- 「死にたい」「消えたい」気持ちが出る
- 強い落ち込み、不安、怒りなど感情面の症状が中心
- 仕事・家庭・人間関係への影響が大きい
- うつ病や不安症など、他の精神疾患が気になる
- 過去に精神科・心療内科にかかったことがある
婦人科で相談しやすい症状
- 生理痛・経血量・不正出血など身体症状もある
- 避妊や月経コントロールも一緒に考えたい
- 低用量ピルを選択肢として検討したい
- 「まず婦人科に相談してみよう」と思っている
どちらを選んでも構いません。受診してみて、「専門が違う」と判断されれば、医師が適切な科を案内してくれます。一つの科で解決しないこともありますが、それは珍しいことではありません。
また、PMDDと思っていた症状が、実はうつ病・双極性障害・不安症などが生理前に悪化しているケース(月経前増悪)であることもあります。専門家に診てもらうことで、より的確な対応が見つかることがあります。
受診前に記録しておくと役立つこと
受診前に少しでも記録があると、医師が状態を理解しやすくなります。1〜2周期分でも、以下のようなメモがあると助かります。
【受診前メモの例】
■ 症状が出始める時期
生理予定日の約○日前から
■ 主な症状(気になるものを書く)
例:急に落ち込む / 強いイライラ / 死にたい気持ち /
眠れない / 過食する など
■ 症状の強さ(10点満点でつけてみる)
ひどい日:8〜9点 ふつうの日:2〜3点
■ 生理が始まると?
数日以内に和らぐ / あまり変わらない
■ 日常生活への影響
仕事を休んだ / 家族と衝突した / 外出できなかった など
■ 今まで試したこと(あれば)
婦人科でピルをもらった / 市販の漢方を試した など
記録がなくてもまったく問題ありません。「なんとなくつらい」という状態で受診することは、十分な理由になります。
PMDDの治療でできること
PMDDは「治療の反応が比較的良い状態」と言われています。すべての方に同じ効果があるわけではありませんが、適切な治療でQOL(生活の質)が改善することは多くあります。
治療の選択肢はいくつかあり、症状の状態や生活環境、希望に合わせて医師と相談しながら選んでいきます。
薬物療法
抗うつ薬のなかでも、SSRIと呼ばれる種類の薬が、PMDDの精神症状に効果があると示されています。うつ病の場合と異なり、症状が出る時期だけ服用する「間欠療法」でも効果が見られることが知られています。毎日飲み続ける必要がない場合もあります。
低用量ピル(経口避妊薬)は、排卵を抑えることで月経前の症状を和らげることが期待されます。身体症状が強い場合や月経コントロールを希望する場合に検討されることがあります。
保険適用の状況や薬の選択については、受診時に医師に確認してください。
漢方薬
加味逍遥散・当帰芍薬散・桂枝茯苓丸など、月経に関連した症状に用いられる漢方があります。SSRIを使いにくい場合や、妊娠を希望している方の選択肢にもなりえます。効果には個人差があります。
心理的サポート・生活の調整
認知行動療法(CBT)や、PMDDについての正しい知識を学ぶ心理教育が、症状改善に役立つことが示されています。
症状日記をつけることだけでも、「いつ、どのくらいつらくなるか」が予測しやすくなり、対処しやすくなることがあります。
規則正しい睡眠・アルコールやカフェインを控えめにする・定期的な運動なども、支持されている取り組みです。
PMDDかどうかわからなくても、相談してよい
「自分はPMDDじゃないかもしれない」と思っている方へ。
受診は、診断名が確定してからするものではありません。「毎月生理前がつらい」「もしかしてPMDDかも?」という段階で相談してよいのです。
実際に診察してみると、PMDDではなくうつ病や不安症が月経前に悪化していた、ということもあります。そのほうが治療の方向性が変わることもありますが、「相談して損だった」ということにはなりません。
「生理前のつらさ」に向き合ってくれる専門家がいます。一人で我慢しすぎる前に、相談してみてください。
よくある質問
Q. 生理前につらくなるのは「普通のこと」ではないですか?
多くの女性が生理前に何らかの不調を感じます。その意味では「まったく珍しくない」とも言えます。ただ、「日常生活に支障が出るほどの症状」は普通のこととして我慢するものではありません。つらさの程度と、生活への影響で判断してみてください。
Q. 精神科を受診することへの抵抗があります
「精神科に行くほどではないかも」と思う方は多いです。ただ、精神科や心療内科は「心身のつらさについて相談する場所」です。診断名がついていなくても、相談して構いません。「生理前だけつらくなる」ということを伝えてもらえれば、まず話を聞いてもらえます。
Q. 毎月症状が出るので、ずっと薬を飲み続けないといけませんか?
薬が必要かどうか、どのように使うかは症状によって異なります。SSRIは症状が出る時期にだけ服用する方法でも効果があると示されています。また、生活の工夫や漢方など、薬以外のアプローチが合う方もいます。「ずっと飲み続けないといけない」とは限りませんので、まず相談してみてください。
Q. PMDDと診断されたら、仕事や生活にどんな影響がありますか?
診断されたことで、何かが変わるわけではありません。ただ、「なぜ生理前だけこうなるのか」がわかることで、自分を責めるよりも「対処する」方向に気持ちが向きやすくなると言われています。職場や家族への説明ツールになることもあります。
Q. 妊娠を希望しているのですが、治療を受けられますか?
妊娠希望の方は、ピル(低用量ピル)を選択しにくい場合があります。ただし、漢方薬や生活習慣の調整、心理的サポートなど、薬以外の選択肢もあります。妊娠を希望していることを受診時に伝えると、状況に合った方法を一緒に考えてもらいやすくなります。
Q. 更年期との違いはありますか?
PMDDは月経のある時期(おもに20代〜40代前半)に起こります。更年期の症状は月経が不規則になる時期に重なることが多く、ホルモンの変化という点では似た部分もあります。「最近月経周期が乱れてきた」「年齢的に更年期が近いかも」という場合は、婦人科にも相談してみてください。
Q. パートナーや家族に理解してもらうにはどうすれば?
「生理前だから」という説明だけでは、なかなか伝わりにくいことがあります。PMDDは性格の問題ではなく、月経周期に伴うホルモン変化と脳の反応が絡み合ったものです。症状日記を見せながら「この時期だけこうなる」と説明すると伝わりやすいことがあります。パートナーが一緒に受診することを、医師に提案してみてもよいでしょう。
まとめ
生理前だけつらくなるのは、甘えでも性格の問題だけでもありません。
PMDDは、適切な支援で症状が改善しやすい状態です。ただ、日本ではまだ認知度が低く、長年ひとりで抱えてきた方も多くいます。
「毎月この時期がこわい」「自分でもどうしていいかわからない」——そういう気持ちがあるなら、まず一度相談してみてください。
春日メンタルクリニックでは、月経に関連した気分の変化についても丁寧に診させていただいています。「PMDDかどうかわからない」という段階でも大丈夫です。
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初診の方は、初診についてのページもあわせてご確認ください。
PMS/PMDDについてもっと詳しく知りたい方はPMS/PMDDの症状と治療もご覧ください。
執筆・監修:精神保健指定医 野口晋宏