夜はCPAPを使っているのに、昼間の会議で眠気と闘っている方がいます。治療を続けても眠いと、「きちんとできていないのでは」と自分を責めたくなるかもしれません。ウエキクス(一般名:ピトリサント塩酸塩)は、こうした日中の眠気やナルコレプシーに対して承認された、新しい仕組みの薬です。ただし、睡眠時無呼吸では気道の閉塞を治す治療を続けることが前提になります。
CPAPを続けても眠い。その「残り」に使う薬です
閉塞性睡眠時無呼吸症候群では、眠っている間に空気の通り道が狭くなったり塞がったりして、呼吸が妨げられます。眠りが何度も途切れ、翌日まで強い眠気が残ることがあります。肥満だけでなく、顎が小さいといった骨格の特徴も関係するので、見た目や体形だけで「自分には関係ない」とは判断できない病気です。
CPAPはこの気道の問題に働きかける治療ですが、適切に使っていても日中の眠気が残る人がいます。夜の治療を続けているのに仕事中に何度もまぶたが重くなると、どうしたらよいか分からなくなるでしょう。ウエキクスは、そうした「治療後も残る眠気」に目を向けた薬です。
対象になるのは、気道閉塞に対する治療が適切に行われているのに、日中の過度な眠気が続くと確認された成人です。いびきがあるから、昼に眠いからというだけで処方する薬ではありません。睡眠時無呼吸症候群という診断に加えて、治療の実施状況と眠気の残り方を確認し、別の病気が眠気の原因になっていないかも調べます。
大切なのは、ウエキクスが気道を広げる薬ではないということです。睡眠時無呼吸そのものや、眠気以外の症状を改善する効果は確認されていません。飲んで昼間に起きていられるようになっても、CPAPなどの治療をやめてよい理由にはなりません。気道の閉塞への治療を続けながら、それでも残る眠気を扱う補助的な治療という位置づけです。
承認された効能の文言では、気道閉塞に対する治療が「CPAP等」と表されています。この「等」は、CPAPだけに限らないという意味です。口腔内装置など、気道閉塞に対する別の治療を受けている人も対象になり得ます。ただし、国内で有効性を確かめた中心的な試験の対象は、CPAPを使用中の患者さんでした。別の治療を受けている場合も、その治療が適切に行われていることが出発点になります。
眠気が少し和らいでも、必要な睡眠時間そのものを薬で置き換えられるわけではありません。睡眠を確保し、生活習慣を見直しながら、薬を続ける意味があるかを定期的に確かめていきます。「もう眠くないからCPAPは卒業」という話にはならないのです。
ナルコレプシーでは、眠気と脱力の両方が視野に入ります
ウエキクスのもう一つの効能が、ナルコレプシーです。この病気では、試験や対面での会話など、起きていたい場面でも耐えがたい眠気に襲われ、思わず居眠りしてしまうことがあります。気合いが足りないから起きていられないのではなく、覚醒を保つこと自体が難しくなる病気です。
人によっては、笑ったときや驚いたときに膝の力が抜けたり、ろれつが回らなくなったりする「情動脱力発作」も起こります。その間も意識は保たれていて、短時間で回復するのが典型的な姿です。ウエキクスは臨床試験で、日中の眠気だけでなくこの情動脱力発作についても有効性が示され、効能が「ナルコレプシー」となりました。
ただし、昼間によく寝てしまうというだけでナルコレプシーとは決まりません。診断では別の睡眠障害との区別が必要で、夜間の睡眠を調べる検査と、その翌日に何度か昼寝をして眠りに入るまでの時間などを測る検査が使われます。治療は、睡眠障害の診断・治療に詳しい医師か、その医師と連携する医師のもとで行います。
生活を支えるのは薬だけでもありません。睡眠日誌で自分の眠り方をつかんだり、短い昼寝を計画的に取り入れたりすることも、ナルコレプシーの治療では大切にされてきました。周囲に病気を理解してもらうことも、眠気を「怠け」と受け止めずに暮らすための一歩です。
「眠らせない」仕組みはヒスタミンにあります
ウエキクスはヒスタミンH3受容体の拮抗薬・逆作動薬です。「ヒスタミン」と聞くとアレルギーの薬を思い浮かべるかもしれませんが、脳の中では、起きている状態を保つ働きにも関わっています。
ヒスタミンの仕組みには、信号を受け取る側と、放出量を調整する側があります。H1受容体は脳の中で覚醒を促す信号に関わり、H3受容体はヒスタミンの放出にブレーキをかけます。ウエキクスが働きかけるのは、主にこのH3受容体です。
ブレーキを弱めることでヒスタミンが放出されやすい方向へ作用し、脳内のヒスタミンによる神経伝達を強めます。ほかの神経伝達物質の放出も調節し、その結果として覚醒を促すと考えられています。気道の閉塞を取り除くのとは別の経路から、日中の覚醒を支えようとする薬なのです。
承認されても、すぐに処方できるとは限りません
ウエキクス錠5mg・20mgは、ヴィアトリス製薬が2026年9月16日に国内承認を取得しました。一方、2026年11月3日時点で確認できる添付文書には販売開始日の記載がなく、厚生労働省の11月1日適用の薬価基準収載品目リストにも載っていません。現時点で、保険診療で処方できる状態になったとはご案内できません。
薬の仕組みや承認された使い道を知ることと、実際に処方を受けられる時期を確かめることは、分けて考える必要があります。発売や薬価収載については、今後の公式発表を確認することになります。
朝1回でも、病気によって量が違います
ウエキクスの飲み方で最初に覚えておきたいのは、「どちらの病気にも同じ量を使う薬ではない」ということです。錠剤には5mgと20mgがありますが、開始量も増量の道筋も、睡眠時無呼吸症候群とナルコレプシーでは異なります。
睡眠時無呼吸症候群の治療中に眠気が残る場合は、通常、成人では5mgを1日1回、朝に飲み始めます。1週間ごとに10mg、20mgへと段階的に増やす用法で、状態に応じた減量も認められています。20mgは、この効能での通常の増量段階の上限です。
ナルコレプシーの場合は、通常、成人では10mgを朝1回から始め、1週間ごとに20mg、40mgへと増量します。こちらも状態を見ながら減量できます。睡眠時無呼吸症候群は5mgから、ナルコレプシーは10mgからという違いは、単なる錠剤の組み合わせではなく、承認された用法そのものの違いです。
なぜ朝なのでしょうか。この薬は覚醒を促すため、午後に飲むと不眠につながるおそれがあり、添付文書でも午後の服用を避けるよう定めています。「眠い時間に飲めばよい」という使い方ではありません。増量も、眠い日にその場で追加するのではなく、週単位で段階を踏む設計です。
ただし、ナルコレプシーでも全員が40mgまで使えるわけではありません。重度の腎機能障害がある方、強いCYP2D6阻害薬を使っている方、CYP2D6という薬物代謝酵素の働きが遺伝的に欠損していると判明している方では、最高用量は20mgです。中等度の肝機能障害がある場合も20mgが上限となり、増量の間隔を延ばすことが検討されます。薬の効き方を考える前に、体の中でどう処理されるかを確かめる必要があるのです。
「眠くなくなった人」の割合だけでは測れません
新しい薬で気になるのは、結局どれくらい効くのかという点でしょう。ここでは「眠くないと感じること」と「眠らずに起きていられること」を分けて読むと、試験結果が見えやすくなります。
臨床試験では、眠気について本人が答えるESSという質問票と、検査中にどれくらい覚醒を保てるかを測るMWTなどが使われています。本人の実感も大切ですが、覚醒を保つ力を別の方法で確かめることにも意味があります。
CPAP治療中でも日中の眠気が残る人を対象とした国内試験では、7週目と12週目のESSスコアを平均して評価した結果、ウエキクス群が偽薬(プラセボ)群を上回りました。ESSが10点以下となった人の割合は、ウエキクス群で56人中21人の37.5%、プラセボ群で57人中15人の26.3%でした。「10点以下になった、または開始時より3点以上下がった」という基準では、それぞれ64.3%と45.6%でした。
この数字は、「飲んだ人の約4割しか効かない」という意味でも、「約6割の人は眠気が消える」という意味でもありません。何を改善と数えるかで割合は変わりますし、症状が軽くなっても眠気が残ることはあります。MWTでも改善する傾向が見られ、審査では複数の評価を踏まえて有効性が認められました。薬の効果を「完全に眠くなくなったか」だけで決めない理由が、ここにあります。
ナルコレプシーの試験には、もう少し複雑な点があります。国内試験ではESSでプラセボより良い結果が示された一方、MWTの変化はウエキクス群のほうが劣る傾向でした。その理由は明確になっていません。海外試験では日中の眠気や情動脱力発作について効果が示され、国内外の結果を合わせて承認が判断されました。一つの数字が良いからといって、覚醒に関するすべての指標が同じ方向に良くなるとは限らないのです。
ですから、服用後の変化を振り返るなら、「眠気がゼロになったか」だけでは足りません。会話中や仕事中の居眠りがどう変わったか、ナルコレプシーなら笑ったときなどの脱力がどう変わったか。困っていた場面に目を向けることが、治療の意味を確かめる材料になります。
覚醒を促す薬だから、夜の眠りにも目を向けます
効き目に期待するときは、副作用も同じ地図の上で見ておきたいところです。ウエキクスで特に注意したいのは、頭痛と不眠です。国内外の試験では、どちらもプラセボよりウエキクスを飲んだ人で多く報告されました。
頭痛は、脳内でヒスタミンの放出が増える作用と関係している可能性が考えられています。不眠は、昼間の覚醒を助ける働きが夜まで続いた場合に起こり得ます。試験では飲み始めの早い時期や増量中に一時的に現れた例が多く、程度は軽度から中等度が中心でしたが、不眠を理由に投与が中止された例もありました。
昼間の眠気を減らすために飲み始めたのに、夜に眠れなくなっては困ります。だからこそ、昼間の変化と夜の睡眠を一緒に見ていく必要があります。朝に飲むという決まりや週単位の増量にも、こうした注意点が関わっています。
そして、飲んで眠気が軽くなったとしても、覚醒の程度が正常に戻ったとは限りません。自動車の運転や危険を伴う機械の操作は、実際に眠気がどれほど残っているかを踏まえて判断します。薬を飲めた日と安全に運転できる日は、同じ意味ではありません。
飲み合わせは、眠気に関係なさそうな薬にも及びます
ウエキクスの飲み合わせは、睡眠薬だけを確認すればよいわけではありません。アレルギーの薬、抗うつ薬、心臓に関わる薬、避妊薬などにも目を向けます。
たとえば、鼻炎薬やかぜ薬に使われることがあるジフェンヒドラミン、クロルフェニラミンなどのH1受容体拮抗薬は、ウエキクスの働きを弱めるおそれがあります。同じ「ヒスタミン」に関係していても、H3に働くウエキクスとH1を抑える薬では、作用する場所と方向が違うのです。
抗うつ薬のパロキセチンなど、CYP2D6という代謝酵素を阻害する薬は、ウエキクスの血中濃度を上げるおそれがあります。パロキセチンを併用した試験では、ピトリサントの体内への曝露量が約2.2倍になりました。逆に、カルバマゼピン、フェニトイン、リファンピシンなどの強いCYP3A誘導薬では、ウエキクスの効果が弱くなる可能性があります。
もう一つは、ウエキクス自身がほかの薬の働きに影響する点です。経口避妊薬やミダゾラム、シンバスタチンなどは、効果が弱まるおそれがあります。薬局で買ったものも含めて服用中の薬を伝えておくと、こうした確認がしやすくなります。
気分の変化も、見過ごさないでください
昼の眠気に注目していると、気分の変化は薬と無関係に思えるかもしれません。しかしウエキクスのリスク管理計画では、不安、うつ病、自殺念慮が「重要な潜在的リスク」に挙げられています。これは、飲めば必ず起こるという意味でも、薬との因果関係が確定したという意味でもありません。
もともとナルコレプシーでは不安や抑うつが併存することもあり、病気の影響と薬の影響を単純には分けられません。それでも国内の試験では、気分の落ち込みや自殺を考える気持ちが副作用として報告されました。審査でも、精神疾患にかかったことがある人では、状態の悪化や自殺念慮の出現に注意が必要だと判断されています。
飲み始めてから不安が強くなった、以前と気分が違うと感じるときは、その変化を主治医に伝えてください。はっきり薬のせいだと説明できなくても、伝えてよいことです。もし命を絶ちたい気持ちが切迫し、今すぐ安全を保つことが難しいときは、一人で抱えず119番へ連絡してください。
心臓、肝臓、腎臓。確認する理由があります
ウエキクスには、心電図のQT間隔を延ばす潜在的な作用があります。国内外の試験などでは大きな問題は示されていませんが、QT延長の危険因子がある人や、アミオダロン、キニジン、モキシフロキサシンなど同じ作用を持つ薬を使っている人では、慎重な確認が必要です。
肝機能の障害が重い人(Child-Pugh分類C)と、ウエキクスの成分で過敏症を起こしたことがある人には使えません。中等度の肝機能障害では、薬が体から抜けるまでの時間が延びるため、最高20mgとし、増量の間隔を延ばすことを考えます。重度の腎機能障害でも、ナルコレプシーに使う場合の上限は20mgです。
少し意外なのは、主に肝臓で代謝される薬なのに、腎機能も関係することです。重度の腎機能障害がある人では血中濃度が上がるため、一般的な増量の説明をそのまま自分に当てはめることはできません。
避妊薬を使っている場合は、特に大切な確認があります
ウエキクスはホルモン避妊薬の作用を弱めるおそれがあります。そのため、服用中と、最後に服用してから21日間は、ホルモンに頼らない避妊方法を使うことが添付文書で求められています。飲み始める前に伝えておきたい、具体的な注意点です。
妊娠中、または妊娠している可能性がある人への投与は、避けることが望ましいとされています。動物試験で、胎児や出生後の発達への影響が認められたためです。授乳中は、薬が母乳に移ることが確認されており、治療と母乳栄養の両方の利点を考えて、授乳を続けるかどうかを検討します。
目指すのは、生活のどの場面が変わるかです
ウエキクスは、眠気を感じたら追加する薬でも、CPAPを卒業するための薬でもありません。朝の服用を続けながら、仕事や会話での居眠り、夜の眠り、頭痛や気分の変化を一緒に確かめていく薬です。運転などの安全性についても、飲んだという事実より、実際に残っている眠気が判断材料になります。
夜の治療を続けているのに昼も眠いというのは、本人にしか分からないつらさがあります。その眠気がいつ、どの場面で困りごとになるのかを言葉にすることも、治療を考える大切な材料になります。
よくある質問
Q. ウエキクスを飲めばCPAPをやめられますか? いいえ。ウエキクスは気道の閉塞を改善する薬ではなく、CPAPなどの治療を適切に続けても残る眠気を対象にしています。服用中も気道への治療と必要な睡眠を続け、薬の必要性を定期的に確認します。
Q. 花粉症の薬や抗うつ薬と一緒に飲めますか? 薬の種類によっては、ウエキクスの効き方や血中濃度が変わる可能性があります。H1受容体拮抗薬やパロキセチンなどは、添付文書で併用時の注意が示されています。市販薬も含めて薬の名前を伝え、組み合わせを確認します。
Q. 眠気が残るなら、自分で量を増やしてもよいですか? 増量は、病気ごとに決められた用量と週単位の段階に沿って行います。肝臓・腎臓の状態や飲み合わせによって、最高用量が低くなる場合もあります。眠気が残る場面や副作用を記録して、次の診察で伝える材料にしてください。
参考にした資料(要約・再構成。原文の転載ではありません)
- 『ウエキクス錠5mg/ウエキクス錠20mg 添付文書』ヴィアトリス製薬合同会社、2026年9月第1版。
- 『ウエキクス錠5mg、同錠20mg 審査報告書』医薬品医療機器総合機構(PMDA)、2026年8月。
- 『ウエキクス錠5mg、ウエキクス錠20mgに係る医薬品リスク管理計画書』ヴィアトリス製薬合同会社、2026年9月。
- 『精神科治療学 第36巻増刊号 今日の精神科治療ハンドブック』第13章、本多真・普天間国博・高江洲義和、星和書店、2021年。