朝から気分が重く何もする気が起きない日が続くと、「更年期だから仕方ない」と思いたくなるかもしれません。でも、その落ち込みの手前に、夜中のほてりや何度も途切れる眠りが隠れていることがあります。気分だけを何とかしようとする前に、体のどこがつらいのかを一緒にほどいてみましょう。
気分が沈んだ日の、前の晩を思い出す
夜中、急に顔や首が熱くなり、汗をかいて目が覚めます。布団をはがして少し落ち着いても、また眠るまでに時間がかかります。翌朝は疲れが残り、いつもなら気にならない一言に腹が立ったり、仕事に集中できなかったりします。
更年期のほてり(ホットフラッシュ)は、ただの「暑がり」とは少し違います。体が熱を逃がそうとする反応に関係していて、皮膚の血管が広がり、汗が出ます。数分で収まることもありますが、夜に繰り返せば眠りは細切れになります。夜間のほてりを「寝汗」と感じる人もいます。
海外の追跡調査では、夜に何度も目が覚めると訴える割合が、中等度から重度のほてりがある女性ではほてりのない女性の約3倍でした。ただし、回数だけで負担が決まるわけではありません。同じようにほてっても、眠りを邪魔されているか、本人がどれほど困っているかが大切です。
ここに、気分の落ち込みを考える手がかりがあります。睡眠の問題と抑うつ症状には関連があり、眠りの乱れが将来のうつ病のリスクと結びつく可能性も報告されています。ただ、ほてりがある人がみなうつ病になるわけではなく、ほてりのない人にも落ち込みは起こります。ほてりを減らせば気分まで必ず治る、という単純な関係ではありません。
研究では、ほてりは夜中に何度も目覚める訴えと、抑うつ症状は寝つきにくさや早朝の目覚めと関連する傾向も報告されています。眠り方だけで原因を決めることはできませんが、いつ眠れなくなるのかは大切な手がかりになります。
まずは「落ち込んだか」だけでなく、「夜中に熱くなったか」「何回起きたか」「翌朝どれくらい疲れていたか」を振り返ってみてください。対処の入口が少し具体的になります。
眠りを立て直すなら、朝から始める
眠れない夜ほど、早く寝床に入って取り返したくなるものです。けれども、眠りのリズムを整える手がかりは夜だけにあるのではありません。
不眠への生活の工夫としては、毎朝ほぼ同じ時刻に起きて朝の光を浴びると、体内時計の助けになります。食事をとる時刻、体を動かす時間、人と交流する時間にも、生活のリズムを作る役割があります。
できるところから一つ選ぶなら、まず起床時刻をそろえるのが分かりやすいでしょう。何時に眠れるかは思いどおりに決めにくくても、朝起きる時刻は習慣として整えやすいからです。
疲れを吹き飛ばそうとコーヒーを重ねる日もあると思います。カフェインは眠りを妨げることがあり、その影響の残り方は人によって違います。また、寝酒で寝つきがよくなったとしても、夜の後半に眠りが浅くなったり、途中で起きたりすることがあります。「寝つけたか」と「朝まで休めたか」は別の問いです。
食事では栄養の偏りを減らし、休息を確保して、無理のない範囲で運動を取り入れます。閉経後の女性を対象にした16件のランダム化比較試験をまとめた研究では、運動で抑うつ症状が軽くなったと報告されました。ただし、研究ごとの結果のばらつきは非常に大きく、運動だけで落ち込みが解決するという意味に受け取れる数字ではありません。
生活を整えるのは、気合いで元気になる練習ではなく、眠りを支える条件を少しずつ増やして、今のつらさを軽くできる場所を探す作業です。
ほてりが残っていても、眠りはよくできる
夜中にほてるたびに起きるなら、先にほてりを治さないと眠れないのでしょうか。実は、ほてりの回数が変わらなくても、睡眠の困りごとが改善した研究があります。
更年期前後の女性106人を対象にした試験では、不眠の認知行動療法(CBT-I)を8週間に6回、電話で行いました。眠る時間の扱い方、寝床と睡眠の結びつけ方、睡眠についての考え方などを見直す方法です。
更年期について一般的な説明を受けたグループと比べると、CBT-Iを受けたグループでは不眠の重症度を示す点数がより大きく改善しました。8週時点での点数の低下は、CBT-I群で平均9.9点、比較群で4.7点でした。この差は24週後にも見られました。
興味深いのは、両グループでほてりの頻度に差がなかったことです。それでも、ほてりによる生活への支障はCBT-Iのグループでより減っていました。体に起きる現象をすべて消さなくても、夜の過ごし方や眠りを変えることで負担を減らせる余地があるのです。
英国の診療ガイドラインでも、ほてりに伴って夜間の覚醒などがある人には、更年期向けの認知行動療法が選択肢に挙げられています。ホルモン補充療法と組み合わせる場合もあれば、ほかの治療を希望しない場合などに検討することもあります。
ここまでの話は、落ち込みを睡眠だけの問題と決めつけるためのものではありません。ほてり、睡眠、気分のうち、今いちばん生活を妨げているところから手をつけるためです。次は、その見極めを薬による治療の選び方につなげていきます。
ほてりが主役なら、ホルモン補充療法を考える
夜中に何度も汗をかき、着替えたあとも眠れません。昼間も急に顔が熱くなり、人と話している途中で気になってしまいます。こんなふうに落ち込みの周りにほてりや発汗が目立つなら、体の症状への治療が一つの入口になります。
ホルモン補充療法(HRT)は、更年期に減っていくエストロゲンを補う治療で、特にほてり、のぼせ、発汗といった症状に使われます。英国の診療ガイドラインも、更年期のほてりに対する治療の選択肢としてHRTを示しています。
では、HRTで気分の落ち込みもよくなるのでしょうか。ここは「落ち込み」の中身で答えが変わります。ほてりなどと同じころに始まった、うつ病の診断基準までは満たさない抑うつ症状には、HRTを検討するという英国の推奨があります。一方、うつ病そのものを治療する場合は別の考え方が必要です。
エストラジオールを使った研究には、閉経移行期の気分への効果を示すものがあります。ただし、レビューで取り上げた24研究のうち、抑うつ状態の人を対象としたランダム化比較試験は5件だけでした。閉経後のうつ病にも同じ効果があるとはいえません。
もう一つ興味深いのは、もともと気分が安定していた女性にホルモン療法を行い、抑うつ症状が出るかどうかを調べた試験です。一定以上の抑うつ症状が出た人は、治療群で17.3%、比較群で32.3%でした。ただ、これはすでに起きているうつ病を治した割合ではなく、予防を調べた数字です。気分への作用を考えるには、閉経のどの時期か、何を目的に使うのかを分ける必要があります。
HRTには使う前の確認もあります。例えばエストラジオールの貼り薬では、乳がんや血栓症の既往、重い肝障害、原因が確定していない不正出血などが、使えるかどうかの判断に関わります。病歴や検診を踏まえて利益とリスクを比べ、治療中も定期的に見直します。ほてりがつらいからといって、誰にでも同じように始める治療ではありません。
気分の落ち込みが中心なら、別の道もある
ほてりはそれほど気にならないのに、仕事や家事に向かう気力が戻りません。あるいは夜の寝汗を治療しても、落ち込みだけが強く残ります。そんなときは「更年期のせい」で話を終わらせず、うつ病として治療する必要があるかを考えます。
更年期に大うつ病エピソードが起きている場合は、抗うつ薬や心理療法が治療の中心になります。同時に寝汗や睡眠の問題があれば、そこにも取り組みます。気分の治療と体の症状への対処は、どちらか一方を選ばなければならないものではありません。
抗うつ薬の中には、ほてりへの効果を調べられたものもあります。海外の臨床試験をまとめた報告では、エスシタロプラムやベンラファキシンを使った群でほてりが約50%減ったのに対し、プラセボ群では約30%減っていました。ただし、これは日本で「ほてりの薬」として承認されているという意味ではありません。うつ病への治療と、ほてりを軽くする目的は区別して考えます。
薬を選ぶときには、吐き気、口の渇き、便秘、頭痛、食欲の変化なども確認します。薬によって、眠りにくくなるという報告も、眠りがよくなるという報告もあります。すでに不眠に悩んでいる人なら、その点も治療を選ぶ大切な材料です。
漢方は、症状の組み合わせから選ぶ
「ホルモン療法は使えないけれど、ほてりも疲れもイライラも気になります」。そんなふうにいくつもの訴えが重なっているとき、漢方薬が選択肢になることがあります。国内の治療を整理した資料でも、HRTや向精神薬と並んで漢方療法が挙げられています。
ただし、「更年期だからこの漢方薬」と一律に選ぶわけではありません。例えば加味逍遙散の医療用製剤は、疲れやすさや肩こり、精神的な不安などがある特定の体質・症状を想定して、更年期障害などに使われます。どんな不調が組み合わさっているか、飲み始めて何が変わったかを確かめながら使う薬です。
漢方薬にも副作用はあります。加味逍遙散では、低カリウム血症につながる異常、肝機能障害、長期使用に伴う腸の血管の病気などが報告されています。改善が見られないまま続けることや、別の漢方薬と生薬が重なることにも目を向けます。「自然なものだから気軽に長く飲める」という発想とは、少し距離を置きたいところです。
更年期向けのサプリメントなども気になるかもしれません。国内の資料ではエクオールに一定の有効性が示唆される一方、補完代替医療全般に十分な根拠がそろっているわけではありません。
何から始めるかは、困り方で決める
同じ「気分が落ち込む」でも、夜中の発汗で朝から疲れ切っている人と、寝汗があまりなくても気分の沈みが続く人とでは、治療の入口が違います。症状の名前を並べるより、何が一日の生活をいちばん妨げているかを言葉にしてみてください。
「寝汗で二度起きます」「朝からだるくて仕事が進みません」「ほてりが軽い日も気分が沈みます」。その一言が、睡眠の調整を先にするのか、ほてりへの治療を考えるのか、気分そのものを治療するのかを話し合う出発点になります。
良くなったところと、まだつらいところを分ける
寝汗が減って夜中に起きなくなっても、朝の気分は重いまま、という日があります。反対に、気分が少し軽くなっても、夜のほてりは残るかもしれません。ほてり、眠り、気分が同じ速さで変わるとは限らないのです。
だからこそ、変化を「良くなった・悪くなった」の一つで採点しないことが大切です。
例えば、朝に「夜のほてり」「目が覚めた回数」「起床時の気分」を短く書き、昼間には「仕事や家事で困ったこと」を一行添えてみてください。きれいな記録にする必要はありません。「最近ずっとつらい」という言葉に、もう少し具体的な輪郭がつきます。
ほてりが落ち着いても気分の沈みが続くなら、気分そのものへの治療を考える手がかりになります。ほてりが残っていても眠れるようになったなら、睡眠への働きかけを振り返れます。漢方やHRTを始めた場合も、目指した症状がどう変わったかを確かめながら治療を見直していきます。薬の変更や中止は処方医と相談して決めます。
更年期の落ち込みには、体のつらさが気分を押し下げている部分と、気分そのものへの治療が必要な部分が重なっていることがあります。最初からどちらか一つに決めきる必要はありません。
まず一日の負担をいちばん大きくしている症状を見つけ、変化を確かめながら次の一手を選んでいきましょう。 その順序なら、「更年期だから」と我慢してきたつらさを具体的な相談に変えられます。
よくある質問
Q. ほてりがほとんどなくても、更年期に気分が落ち込むことはありますか?
あります。ほてりを伴わない落ち込みも報告されています。気分の沈みが続いて生活に支障があるなら、ほてりの有無だけで判断せず、うつ病としての治療が必要かどうかも含めて考えます。
Q. ホルモン補充療法を受ければ、抗うつ薬は必要なくなりますか?
HRTは特にほてりや発汗に対する治療で、うつ病の診断基準を満たさない更年期の抑うつ症状にも検討されます。一方、うつ病が疑われるときは、うつ病に対する治療も考えます。寝汗や不眠への対処と気分への治療を並行する場合もあります。
Q. 漢方やサプリメントから試したいのですが?
漢方は症状の組み合わせや体質を踏まえて選び、効果を確かめながら使います。加味逍遙散などにも副作用があり、漫然と続ける薬ではありません。サプリメントについては、エクオールに一定の有効性が示唆されていますが、補完代替医療全般に十分な根拠があるわけではありません。
参考にした資料(要約・再構成。原文の転載ではありません)
- 『精神症状に潜む身体疾患ルールアウト』James Morrison(松崎朝樹監訳)。
- “Sleep problems during the menopausal transition: prevalence, impact, and management challenges” Fiona C. Bakerほか、Nature and Science of Sleep、2018年。
- 「更年期障害」相模原市、相模原市公式サイト。
- Quiet Your Mind and Get to Sleep Colleen E. Carney・Rachel Manber、New Harbinger Publications、2009年。
- “Exercise as a therapeutic strategy for depression in menopausal women: a metaanalysis of randomized trials” Sen Liほか、Frontiers in Psychiatry、2025年。
- “Telephone Delivered Cognitive-Behavior Therapy for Insomnia in Midlife Women with Vasomotor Symptoms: An MsFLASH Randomized Trial” Susan M. McCurryほか、JAMA Internal Medicine、2016年。
- Menopause: identification and management (NG23) NICE、NICE、2015年(2024年改訂の推奨を含む)。
- “Efficacy of Estradiol in Perimenopausal Depression: So Much Promise and So Few Answers” David R. Rubinowほか、Depression and Anxiety、2015年。
- “Efficacy of Transdermal Estradiol and Micronized Progesterone in the Prevention of Depressive Symptoms in the Menopause Transition” Jennifer L. Gordonほか、JAMA Psychiatry、2018年。
- 「エストラーナテープ 添付文書」久光製薬、PMDA掲載。
- 「周閉経期うつ病ガイドラインの紹介記事」University of Illinois Chicago、UIC、2018年。
- “Lights on MsFLASH – A Review of Contributions” Susan D. Reedほか、Menopause、2020年。
- “The Use of Antidepressant Drugs in Climacteric Syndrome” Maria Célia Mendesほか、Revista Brasileira de Ginecologia e Obstetrícia、2020年。
- 「ツムラ加味逍遙散エキス顆粒(医療用)添付文書」ツムラ、PMDA掲載。
- 「更年期症状を有する女性に対する診療ガイドライン等の整理」金城泰幸・田原有希・栗田智子、厚生労働科学研究費分担研究報告書、令和7年度。