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「怒りっぽい人は、てんかんになりやすいのでしょうか」。そんな疑問を持つ人がいても不思議ではありません。実は昔の医学には、てんかんと特定の人柄を結びつける考え方がありました。今では大きく見直されたその説が、なぜ長く信じられてきたのでしょうか。

薬の説明書に残った「てんかん性格」という言葉

古い考え方の名残は、薬の説明書にも見られます。

精神科医の松浦雅人が2022年に発表した論文では、カルバマゼピンの添付文書の効能・効果に「てんかん性格」という表現があったと紹介されています。バルプロ酸にも、てんかんに伴う不機嫌さや怒りやすさを性格・行動の障害として扱う記載がありました。どちらも、薬が日本で発売された1960〜70年代の医学用語を引き継いだものと考えられます。

現在の添付文書にも同じ表現が残っています。古い学説の言葉が薬の説明にまで入り込んでいることは、考えてみる価値があります。

「不機嫌」「怒りっぽい」という言葉が病名のそばにあれば、読む人は、てんかんのある人なら誰でもそういう人柄なのだと受け取ってしまうかもしれません。薬は困った症状に対応するためにあるのに、説明の言葉が人の性格を決めつける方向に働くこともあります。

そもそも、性格とてんかんを結びつける発想はどこから生まれたのでしょうか。

重い患者の観察が「みんなの性格」になってしまった

時計を19世紀のフランスに戻してみます。当時の精神科医モレルが観察したのは、てんかんのある人全体ではなく、病状が重く精神科病院での長期入院を必要としていた人々でした。

モレルは、その人たちに見られた激しい怒りなどを、発作の繰り返しが生む性格の特徴だと考えました。さらに、ある世代の病気や性質が次の世代で別の病気へと変わり、次第に重くなっていくという「変質学説」を唱えました。当時は新しい科学的な説明として受け止められましたが、現代の医学で支持される考え方ではありません。

ここには見落としやすい問題があります。病院に長く入院している重症の人を調べて、そこで見られた振る舞いを、病状も暮らしも異なるすべての人に当てはめてよいのでしょうか。しかも、入院生活そのものが感情にどう影響したのかという問題も残ります。

それでも、性格から病気を説明する試みは続きました。1921年、ドイツの精神科医クレッチマーは、体格と気質、精神疾患を関連づける理論を提案します。のちに彼は、てんかんを「粘着」と「爆発」という対照的な性格傾向と結びつけました。しかし、この体格理論には統計学的な裏づけがありませんでした。

続いてミンコフスカは、てんかんのある人を含む一家系を何世代にもわたって調べ、発作を経験したことのない家族にも共通する気質があると論じました。ところが、一つの家系で見つけた特徴を、ほかの多くの家族にも当てはまる一般法則にすることはできません。

病気を理解しようとして生まれたはずの説明が、やがて「こういう人は危険だ」「家系ごと問題がある」といった社会の偏見や、優生思想と結びついていった歴史もあります。研究上の仮説が、人の価値を測る物差しに変わってしまったのです。

一方で、当時から異論もありました。医師のワイツゼッカーは、問題視された振る舞いを、本人にもともと備わる性格ではなく、周囲から理解されないことへの反応として考えました。隔離され、自由を制限され、いつも誤解される立場に置かれたら、誰でも振る舞いが変わるのではないかという問いです。

昔の医師が観察したのは、その人の変わらない「本性」だったのでしょうか。それとも、病気と暮らしの条件が重なったときに見える姿だったのでしょうか。

てんかんの人に共通する性格は見つかったのか

では、研究が進んだ現在はどう考えられているのでしょうか。

松浦の論文が紹介する1973年のWHOのてんかん辞典は、てんかんの原因や背景がさまざまである以上、全員に共通する人格像を想定するのは適切でないと評価しています。その一方で、脳の病態、発作に伴う不安や抑うつ、治療薬の作用によって、感情や行動に変化が起こりうることも認めていました。この二つを混同しないことが大切です。

そもそも心理学でいう「性格」とは、その人の考え方や感情、振る舞いに比較的長く見られる傾向を指します。今日いらいらしていても、昨日まで穏やかだったなら、それだけで「怒りっぽい性格」になったわけではありません。

研究では、この違いを「特性(trait)」と「状態(state)」という言葉で考えます。一定期間続く傾向と、その時々に現れる症状を分けるためです。ただし、ある傾向がしばらく続いたからといって、もう変わらないと決まったわけでもありません。

性格とてんかんの関係を探る研究がすべてなくなったわけではありません。たとえば側頭葉てんかんでは、細部への強いこだわりや宗教的な関心、文章をたくさん書く傾向などを一つのまとまりとして考える「ゲシュヴィント症候群」が提唱されました。発作に関わる脳の働きが、感情に関係する領域との結びつきを変えるという仮説もありました。

しかし、調べるための質問紙はてんかん特有の特徴を十分に見分けられず、精神症状の強さに左右されると指摘されました。熱心な信仰や文章を書くことと、治療が必要な症状をどこで分けるのかという問題も残りました。定義や持続性がはっきりせず、この説を確かな性格類型として支持できる研究はそろっていません。

側頭葉てんかんや若年ミオクロニーてんかんなど、一部の病型と行動傾向の関係を調べる余地はあります。ただ、研究結果は誰を対象にし、何をどう測るかによって変わります。脳の病態による変化なのか、薬や社会の偏見などによる変化なのかを切り分けるのも簡単ではありません。

「こういう性格だから、てんかんになる」という考え方と、「てんかんに関連して気分や行動が変わることがある」という問題は別です。 後者に目を向けると、「人柄の問題」と片づけられてきた困りごとに、別の説明が見えてきます。

「前はこんなに怒る人じゃなかった」の裏側

「前は、こんな小さなことで怒る人ではなかったのに」。家族がそう感じるとき、目の前にあるのは確かに困った変化です。以前なら笑って済ませた一言に強い口調で返されたり、話し合いが長引いたりすれば、家族も疲れてしまいます。けれど、そこで「本当は怒りっぽい性格だった」と結論づけると、見落とすものがあります。

たとえば、相手の言葉に腹を立てる理由があったとします。その怒りが理解できるからといって、すべてを性格の問題にしてよいわけではありません。もともとの感情の表し方に、生活上のストレスや体調の悪さ、意識のわずかな変化が重なれば、同じ出来事への反応も変わりえます。病院で強く怒っている人を見たとき、精神科医は、せん妄など意識の問題が隠れていないかも考えます。「怒る理由があること」と「治療できる背景がないこと」は同じではないのです。

てんかんについては、普段の人柄とは異なる短い気分の変化が100年以上前から記録されていました。精神科医クレペリンが「周期性不機嫌」と呼んだのは、普段は穏やかな人にも突然いらだちや不安、気分の落ち込み、不眠などが入り交じって現れ、比較的短い期間で収まる状態でした。昔の記述にも、生まれつきの人柄だけでは説明できないという手掛かりがあったのです。

その後、こうした現象は「発作間欠期不快気分症」という考え方で改めて検討されました。いらだちだけでなく、抑うつ、気力の低下、不安、恐怖、不眠などが突然現れ、数時間から2日程度で引いていくことがあるとされます。しかも一度きりではなく、間隔を置いて繰り返す点が注目されました。

日本で焦点てんかんのある128人を調べた研究では、19.5%がこの不快気分症の評価基準に該当しました。これは特定の集団を調べた結果で、てんかんのある人全体の2割が同じ状態になるという意味ではありません。該当した人には生活の質の低さなども認められ、周囲が「また不機嫌だ」と受け取る変化が本人にとってもつらい体験であることがうかがえます。

もちろん、てんかんのある人の怒りを何でも不快気分症と呼ぶことはできません。脳の病態や薬の作用だけでなく、偏見や生活上の制約が気持ちに影響することもあります。家族の困りごとを軽く見ず、本人を「そういう性格」と決めつけもせずに、何が変化を生んでいるのかを考えることが大切です。

そして、変化がいらだちや不安を超えて幻聴や妄想として現れる場合には、もう一つ大切な手掛かりがあります。その症状は、発作の「いつ」現れたのでしょうか。

幻聴や妄想は、発作の「いつ」現れるのか

「発作はもう終わったのに、数日たってから急に様子が変わりました」。こんな経過を聞くと、発作とは別の問題に思えるかもしれません。ところが、てんかんに伴う精神病症状を考えるときには、発作との時間的な関係が重要になります。同じ「怖がる」「不思議なことを確信する」という変化でも、起きた時期によって考える状態が違うからです。

① 発作そのものが精神症状として現れる場合

てんかん発作は、目に見えるけいれんばかりではありません。意識を保ったまま、突然の強い恐怖などを感じる発作もあります。また、目立つけいれんがなくても発作の状態が続く「非けいれん重積状態」で、精神病症状が現れる場合があります。

こうしたときは、症状そのものが発作に当たる可能性を調べます。とくに非けいれん重積状態では、脳波で発作に伴う変化を確かめることが診断の鍵になります。ただし、意識を保った焦点発作では、脳波に発作の変化を捉えるのが難しい場合もあります。治療の中心は、てんかんの発作を抑えるための薬の調整です。

② 発作が終わり、いったん落ち着いてから現れる場合

ここに、家族が最も戸惑いやすい時間差があります。典型的な「発作後精神病」では、発作が続けて起きた後、いったん普段どおりに見える時間が挟まります。その時間は数時間のことも、1週間ほどに及ぶこともあります。家族が「落ち着いてよかった」と思ったころに、精神病症状が急に現れることがあるのです。

気分が大きく高揚したり、自分には特別な力があると思い込んだり、死が迫っているような恐怖に襲われたりすることがあります。妄想が現れる場合もあり、興奮が激しくなる人もいます。典型的には症状が1〜3日ほど続き、多くは1週間以内に収まりますが、数か月続く例も報告されています。

強い興奮などがある急性期には、ベンゾジアゼピン系薬や抗精神病薬を使うことがあります。目の前の精神症状を治療するとともに、長い目では発作を抑えることが重要になります。「発作の直後ではなかったから、てんかんとは無関係」とは言い切れません。

③ 発作と直接結びつかない時期に現れる場合

もう一つは「発作間欠期精神病」です。発作と発作の間に、意識がはっきりしたまま幻聴や妄想などが現れ、24時間以上続く状態を指します。1か月未満の比較的短い経過もあれば、1か月以上続く慢性的な経過もあります。統合失調症に似た症状がみられる一方で、感情表現が比較的豊かで、意欲低下などが目立ちにくいといった違いも報告されています。

さらに少し不思議なのが、発作が減る時期に精神症状が目立ち、発作が増えると精神症状が落ち着く「交代性精神病」です。精神症状が現れている間に脳波上のてんかん波が消える現象は、「強制正常化」と呼ばれます。発作が少ないことだけを見て、すべてが落ち着いたと判断できない場合があるのです。

発作間欠期の精神病症状には、抗精神病薬による治療が検討されます。その際も、てんかんの治療薬との相互作用や発作への影響を考える必要があります。

家族に覚えておいてほしいのは、幻聴や妄想の内容を一生懸命解釈することより、発作が起きた日、いったん落ち着いた期間、精神症状が始まった日を区別することです。その時間の並びが、何を治療すべきかを考える手掛かりになります。

薬で「性格が変わった」ように見えることも

「薬を変えてから、言い方がきつくなりました」。そんなとき、家族は薬の影響を疑うかもしれません。一方で本人は「腹が立つことがあるから怒っているだけ」と感じているかもしれません。どちらの見方にも手掛かりはありますが、まず確かめたいのは、変化がいつ始まったかです。

抗てんかん薬は発作を抑えるための治療薬ですが、脳に作用する過程で気分や行動にも影響することがあります。いらだち、興奮、攻撃的な言動、抑うつ、不安、時には幻覚や妄想といった変化も検討の対象になります。見た目には「怒りっぽくなった」としか分からなくても、背景に薬の影響がある場合、性格として片づけると治療を考える機会を逃してしまいます。

代表的な例がレベチラセタムです。2013年、精神・行動面の副作用について添付文書の注意が改訂されたことを受け、日本てんかん学会と日本小児神経学会が見解を公表しました。易刺激性や混乱、焦り、興奮、攻撃性などへの注意を促す一方で、この薬だけが特別に危険だと思われないよう説明を求めています。

ここは誤解しやすいところです。薬の副作用を知ることと、その薬を怖がって飲まなくなることは別の話です。発作が安定している人が急に服薬をやめれば、発作の再発や重い発作状態につながるおそれがあります。変化を感じたときこそ、自己判断で減らしたり中止したりせず、主治医に経過を伝えることが大切です。

精神・行動面への影響は、ゾニサミドやトピラマートなどでも報告されています。気分を安定させる働きが期待される薬でも、予想しにくい精神症状が現れる場合があります。起こりやすい変化は薬ごとに異なり、薬が原因かどうかも、精神疾患の既往、発作の変化、ほかの背景を含めて考えます。

そもそも、なぜ薬によって怒りや不快感が生じるのか、その仕組みがすべて明らかになっているわけではありません。薬を始めた日や増量した時期と、眠り・気分・言動が変わった時期を並べておくと、診察で検討しやすくなります。必要なら医師が薬の種類や量、増量の速さを見直します。薬のせいと決めつけず、薬の可能性も外さない姿勢が役に立ちます。

治療の手掛かりは「性格」ではなく、変化の順番にある

診察で「最近、性格が変わりました」と伝えるのは、決して間違いではありません。ただ、そこに「いつから」「その前に何があったか」を添えると、困りごとの輪郭がはっきりしてきます。

たとえば、以前からの人柄については「もともと慎重で、心配事を長く考える方でした」と伝えられます。そのうえで「先月発作が続き、その後はいったん落ち着き、数日後から怖いことを言い始めました」と話せば、発作後精神病を考える手掛かりになります。発作とは関係のない時期に幻聴が続いているなら、別の経過として検討する必要があります。

確かめる順番は難しくありません。発作の時期、普段と違う気分や言動が出た時期、薬を始めたり増やしたりした時期、暮らしの中で起きたことを、思い出せる範囲で時系列に並べてみます。「発作は減ったのに精神症状が出てきた」という情報も重要です。本人が気づきにくい変化を家族が覚えていることもあれば、家族の知らない本人の苦痛もあるので、両方を合わせて考えます。

治療では、まず発作そのものによる症状か、発作後の変化か、発作間欠期の精神症状かを検討します。てんかんの診断や治療薬を再確認し、精神疾患が併存していないかも考えます。幻聴・妄想や強い興奮など具体的な症状には薬物療法が検討され、心理教育や精神療法的な働きかけが役立つ場面もあります。目標は人柄を作り替えることではなく、苦痛や生活の支障に対処することです。

強い興奮があり、自分や周囲の人を傷つけるおそれが差し迫っているときは、119番で救急対応を求めてください。そこまで切迫していなくても、幻聴や妄想、急な言動の変化があれば、発作や薬の経過とあわせて主治医に伝えます。

かつては病名で人全体を括るような呼び方がありましたが、今は「てんかんのある人」という表現が広がっています。言葉の違いは小さく見えても、見方を変えるきっかけになります。「てんかんになりやすい性格」を探すより、その人に何が起き、何を変えられるのかを考えることが、治療につながる問いです。

よくある質問

Q. 怒りっぽい性格や神経質な性格だと、てんかんになりやすいですか? 特定の性格がてんかんを引き起こすという根拠は、ここで紹介した資料にはありません。昔は気質や体格とてんかんを結びつける説がありましたが、現在は全員に共通する性格像を想定するのは適切でないと考えられています。

Q. 発作が終わって数日後に幻聴や妄想が出ることはありますか? あります。発作後精神病では、発作の後にいったん普段どおりに見える時間を挟んでから、精神病症状が現れることがあります。一方、発作間欠期精神病では発作との直接の時間関係が目立たないため、経過の見極めが大切になります。

Q. 抗てんかん薬を飲んでから怒りっぽくなった場合、薬をやめた方がよいですか? 薬の影響は考えられますが、発作や気分の変化など、ほかの要因もありえます。急にやめると発作が再発する危険があるため、自己判断では中止せず、薬を始めた時期と変化の経過を主治医に伝えて治療を見直します。

参考にした資料(要約・再構成。原文の転載ではありません)

  • 『精神科治療学』第37巻第6号「てんかん『性格』―あるか、ないか―」松浦雅人・兼本浩祐・渡邊芳之・深尾憲二朗・吉野相英・尾久守侑・岩佐博人、星和書店、2022年。
  • 『今日の精神科治療ハンドブック2021』本岡大道(該当章執筆)、星和書店、2021年。
  • 『Oxford Textbook of Neuropsychiatry』Niruj Agrawal・Rafey Faruqui・Mayur Bodani編、Oxford University Press、2020年。
  • 「レベチラセタム使用上の注意改訂に関連して」兼子直・大野耕策・大澤真木子、日本てんかん学会・日本小児神経学会、2013年。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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