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「電気けいれん療法」と聞くと、目を覚ましたまま電気を流される場面を想像するかもしれません。けれど現在行われるECTの多くは、全身麻酔で眠り、筋弛緩薬で体の大きなけいれんを抑える「修正型」です。受ける前に知りたいのは、治療室で何が起こり、何回受け、記憶にどんな影響がありうるのかという具体的な話でしょう。まずは入院から治療当日の目覚めまでを追ってみます。

1. 怖いイメージには歴史があります

ECTという名前を初めて見たとき、「電気」と「けいれん」という二つの言葉だけで身構えてしまうのは不思議ではありません。その怖さには、治療の歴史も関係しています。

精神疾患へのけいれん療法が考案されたのは1930年代です。はじめは薬剤で発作を起こす方法でしたが、1938年には電気刺激を用いるECTが登場しました。当時の方法では体にも大きなけいれんが起こり、骨折などが問題になっていました。患者さんにとって、治療そのものが強い恐怖を伴う時代があったのです。

転機は1950年代に訪れます。酸素を投与しながら麻酔薬と筋弛緩薬を使う方法が開発されました。その後も1970年代の片側性ECT、1980年代のパルス波治療器と、治療の方法は変わってきました。日本でも2000年代にパルス波治療器の使用が認められ、治療のあり方が整理されていきました。

いま行われる修正型ECTでは、麻酔薬で意識を失った状態にしてから治療します。脳には発作活動を生じさせますが、体の大きなけいれんは筋弛緩薬で抑え、骨折の危険を減らします。脳に電気刺激を与えるという原理は残しながら、体の負担を抑える方法へ変わってきたことが、古い映像や印象と現在のECTを分ける大切な点です。

2. 入院したら、まず何を調べるのでしょうか

日本では、ECTを入院中に手術室で行う施設が多くあります。一方、欧米には専用の治療室と回復室を備え、外来で行う施設もあります。ですから「ECTを受ける」と決まっても、どこでどのような日程で受けるかは、施設の体制によって違います。

治療室に入る前にまず確認されるのは、「なぜECTを行うのか」です。期待される効果だけでなく、ほかの治療方法、効果が十分に得られない可能性、終わったあとも治療を続ける必要性について説明を受けます。頭痛、記憶への影響、意識の混乱、心臓や呼吸に関わる問題など、知っておきたい副作用も説明の対象です。疑問が残れば質問でき、同意したあとでも撤回できます。

そのうえで、準備には大きく二つの目的があります。一つは、全身麻酔を受けられる体の状態かを確かめることです。心電図、血液検査、画像検査などで、心臓や血管、脳血管に問題がないか、持病が治療中に影響しないかを調べます。歯や口の中、飲み込む力も確認します。こうした結果を踏まえて、麻酔科医が麻酔薬や筋弛緩薬の使い方を検討します。

もう一つは、治療前の状態を記録しておくことです。気分や行動がどのくらいつらいかだけでなく、記憶や認知機能が治療前にどうだったかも確認します。ECT後に「前より元気になった」「出来事を思い出しにくい」と感じたとき、何が変わったのかを確かめる手がかりになるからです。検査や説明は、治療を安全に始め、変化を見失わないための準備でもあります。

3. 治療当日、眠っている間に何が起きる?

治療当日の流れを知ると、「電気を流す」という一場面の前後に、多くの確認があることが分かります。

まず、食事や飲み物を控える時間が指定されます。厚生労働省に掲載された一つの実施フローでは、治療前6時間の絶飲食が示されています。ただ、これは全国一律の時刻ではなく、実際には受ける施設から示された当日の指示に沿って準備します。

病室で血圧や脈拍、血液中の酸素の状態などを確認し、手術室や専用の治療室へ移動します。そこで本人確認を行い、脳波や心電図を記録するための電極をつけ、点滴のための細い管を血管に入れます。頭にも刺激用の電極をつけます。準備が整うと酸素マスクを当て、血圧や心拍などを見守りながら麻酔を始めます。

ここからは、本人の意識がない間に進みます。麻酔薬で眠ったことを確認してから、筋弛緩薬を投与します。麻酔薬は意識をなくすため、筋弛緩薬は体の大きなけいれんを抑えるためのもので、役割が違います。筋弛緩薬が効いている間は、医療者がマスクなどを使って呼吸を補助し、酸素の状態や血圧、心電図を確認し続けます。歯や口の中を守る器具も使います。

準備ができたところで通電します。通電そのものは数秒で、医学書に示された手順例では約8秒です。短い刺激のあと、医療者は脳波などで発作活動を確認します。ECTは脳に発作活動を起こして症状の改善を目指す治療で、体全体を激しく動かす必要はありません。筋弛緩薬を使うのはそのためです。

通電が終わっても、すぐに処置終了とはなりません。呼吸の補助を続けながら脈拍や血圧を見守り、自分で呼吸できるようになったこと、意識が戻ってきたことを確認します。その後は回復室へ移り、落ち着いて過ごせる状態になるまで観察を受けます。ECTの一回は、数秒の通電だけでなく、眠る前の準備と目覚めたあとの確認までを含む治療なのです。

4. 「1回15分」と聞いたら、何時間で戻れる?

「1回15分ほど」と聞くと、病室を出て15分で戻れるようにも思えます。国内の病院にも実際にそう説明している例がありますが、これはECTの処置そのものの時間です。治療室での準備、麻酔からの回復、部屋に戻ってからの安静までを含めた時間ではありません。

目覚めた直後は、呼びかけに返事をしていても、ここがどこなのか分かりにくかったり、会話がかみ合わなかったりすることがあります。こうした混乱は30分から1時間ほどで落ち着く場合がありますが、回復室では様子を見ながら、急に起き上がって転落したりしないように見守ります。

頭痛や筋肉痛、吐き気が出ることもあります。頭痛は多くの場合24時間以内に治まるとされ、鎮痛薬などで対応します。処置そのものは眠っている間に終わっても、目覚めたあとの体調まで含めて考える必要があります。

海外のUCLAでは、外来ECTの案内に3〜4時間程度の滞在時間を示し、帰宅時の付き添いと帰宅後の見守りも求めています。これは同施設の運用で、日本の入院治療の日程を表す数字ではありません。「何分かかりますか」と尋ねるときは、処置の時間と、その日をどう過ごすかを分けて聞くと見通しが立ちます。

5. 週2〜3回、6〜12回。なぜ回数は決まっていないのでしょう?

ECTは、1回受ければ終わりという治療ではありません。急性期には週2〜3回、計6〜12回を一つの目安に、通常は治療と治療の間を1日以上空けながら進めます。週3回で8回前後と説明する国内の病院もあります。ただ、初日に「必ず12回」と決めて、その数字に向かって機械的に通うわけではありません。

数えたいのは施行回数ではなく、症状がどこまで変わったかだからです。気分の落ち込みや焦燥など、治療前に確認した症状がどう変化しているかを、そのつど確かめます。十分に改善すれば終了を考えますし、改善が頭打ちになってきたときも続ける意味を見直します。予定より回数が少なくなることもあれば、経過によって追加を考えることもあります。

もう一つの物差しが、治療による負担です。特に記憶や認知機能への影響が強いときには、週1〜2回に減らして間隔を広げる方法が検討されます。ただし、間隔を広げると治療効果の得られ方にも影響しうるため、単に少ないほどよいとは言えません。

たとえば症状は軽くなっていても、最近の出来事を思い出せないことが本人にとって大きな苦痛になっているかもしれません。反対に、まだ改善の余地があり、副作用との兼ね合いを見ながら続ける判断もあります。回数を決めるのはカレンダーだけではなく、症状と記憶の両方の経過です。

6. もの忘れは、どこまで戻るのでしょうか

ECTで一番気になることとして、「記憶が消えるのでは」と考える人は少なくないでしょう。ここで大切なのは、もの忘れを一つの箱に入れないことです。目覚めた直後の混乱、これから起きることを覚える力、すでに経験したことを思い出す力は、別々に考える必要があります。

治療直後には、自分がどこにいるか分からなくなるような一時的な混乱が起こることがあります。治療を重ねる間には、夜間を中心に混乱するせん妄が起こることもあります。こうした意識の変化と、後から気づく「出来事の記憶の抜け」は同じものではありません。

記憶への影響は、大きく二つに分けられます。前向性健忘は、治療後に見聞きした新しい情報を覚えておくのが難しくなることです。逆向性健忘は、治療より前の経験を思い出せなくなることです。たとえば最近の外出や家族との出来事など、自分の人生に結びついた記憶が抜ける場合があります。医学では、こうした記憶を「自伝的記憶」と呼びます。

この二種類を区別すると、研究結果の読み方も変わります。2010年に報告された84研究・2981人のメタ解析では、認知機能の検査成績が下がるのは主にECT終了後の数日間で、その後は多くの項目で回復が示されました。15日を過ぎた時点では、処理速度や新しいことを覚える力など、治療前より成績がよい項目もありました。

ただし、この解析には、過去の出来事を思い出す力を標準化して測る検査が含まれていません。つまり「新しい情報を覚えられるようになった」という結果だけから、「以前の思い出もすべて戻る」とは言えないのです。

実際、2007年にニューヨーク周辺の7施設で行われた研究では、ECTのコース終了後だけでなく、6か月後にも認知面への影響が確認されました。とくに過去の出来事に関する健忘は、右片側性より両側性のECTで強く、長く残る傾向が示されました。使う刺激の波形によっても結果に違いがありました。こうした研究は、治療法の細かな設定が記憶への負担に関わることを示しています。

そのため記憶への影響が問題になったときには、電極の配置や刺激条件、治療の間隔を見直す余地があります。ただし、認知面への負担を減らす選択が、症状を改善する速さと両立するとは限りません。右片側性は認知面の影響が少ないという報告がある一方で、効果が現れる速度は両側性より遅い可能性も指摘されています。

だからこそ、「検査では問題ないと言われたけれど、あの日の記憶がない」という訴えを、検査結果だけで片づけることはできません。治療前後で比べるとともに、いつごろのどんな出来事が思い出しにくくなったのかを確かめることが大切です。新しく覚える力の回復と、失われた思い出が戻ることは、同じ問いではありません。

7. 受けた人は、ECTをどう振り返っている?

ECTを経験した人に「受けてよかったですか」と尋ねたら、一言で答えられるでしょうか。症状が軽くなったことをありがたく思う一方で、治療中の出来事や以前の思い出が抜けたことに戸惑う人もいます。改善したことと、失ったと感じるものがあることは、同時に成り立ちます。

2003年に発表された系統的レビューは、ECTを受けた人の見方を調べた研究を集めています。医療者による26研究と、患者が主導したり参加したりした9報告を検討し、少なくとも3分の1が持続する記憶喪失を訴えたと報告しました。ただし、これは調査方法も対象も異なる古い研究の集まりです。この割合を、現在の日本で修正型ECTを受ける人の割合として使うことはできません。

このレビューで興味深いのは、「誰が、いつ、どこで尋ねたか」によって評価が変わるという点です。患者自身が中心になった調査では、医療者が実施した調査より、治療をよかったと評価する割合が低い傾向がありました。治療直後の医療機関で短い質問に答える場合と、時間をおいて経験を詳しく振り返る場合とでは、伝えられる思いが違うのかもしれません。

治療後に感じる不安にも目を向ける必要があります。頭痛やもの忘れが続くと、それ自体が気持ちの負担になります。ECTの合間に個別の作業療法を取り入れた研究では、記憶の検査成績に差は出なかったものの、気分や疲労感の改善を支える結果が示されました。記憶の回復と、不安を抱えながら日々を過ごすことへの支えは、別の課題なのです。

受けた人の感想を知るには、「満足したか」だけで終えず、どの症状が楽になり、どの経験が気がかりとして残ったのか、その両方を聞く視点が欠かせません。

8. ECTが終わったあと、治療はどう続く?

「次が最後のECTです」と言われたら、長く続いた治療に区切りがつくように感じるでしょう。ただ、急性期のECTを終えることと、再発を防ぐための治療が終わることは同じではありません。症状が改善したあとに再び悪くなることがあるため、その先の計画が大切になります。

通常は薬物療法や心理社会療法を続け、必要に応じてECTを組み合わせる方法も考えます。急性期の治療後、6か月以内の再燃予防を目的に行うものが「継続ECT」、6か月以上にわたって再発を防ぐ目的で行うものが「維持ECT」です。似た言葉ですが、どちらもよくなった状態をどう保つかという問題に向き合う治療です。

継続ECTでは、週1回程度から始め、状態に応じて少しずつ間隔を広げて月1回程度にしていく例があります。もちろん、ECTを受けた人が全員そのまま続けるわけではありません。薬だけでは再燃を防ぎにくい、薬による治療を安全に行いにくい、本人がECTを希望する、といった事情を踏まえて検討します。

長く続けるときほど、続ける理由を定期的に確かめます。日本の推奨事項では、治療ごとに心身の状態を確認し、少なくとも3回に1回は認知機能を評価すること、少なくとも6か月ごとに計画を見直して新たな同意を得ることが示されています。維持ECTでは、よい状態を保てる範囲でできるだけ少ない頻度を考えます。

受ける前から「何回で終える予定か」に加えて、「終わったあと何を続けるのか」「記憶の問題が出たらどう計画を変えるのか」を聞いておくと、治療の全体像が見えてきます。

当院ではECTは実施していません。実施している医療機関はご自身でお探しいただくことになりますが、紹介状(診療情報提供書)は必要に応じて作成します。

よくある質問

Q. ECTは必ず入院して受けるのですか?

日本では入院して手術室で行う施設が多くありますが、海外には外来で行う施設もあります。UCLAの外来では、帰宅時の付き添いやその後の見守りが求められます。入院日数や通院の条件は、受ける施設の体制を確認する必要があります。

Q. 予定していた回数の途中でも、治療を終えられますか?

6〜12回は目安で、症状の改善や副作用を見ながら回数を調整します。続ける意味や負担について説明を受け、途中でも質問できます。ECTへの同意は撤回できます。

Q. 記憶が抜けていると感じたら、何を伝えればよいですか?

最近の出来事を覚えにくいのか、治療前の思い出が抜けているのかを分けて伝えると役立ちます。旅行や家族との出来事など、具体的に思い出せない経験も手がかりになります。治療前の状態との比較や、治療条件を見直す判断につながります。

参考にした資料(要約・再構成。原文の転載ではありません)

  • 『気分症群(講座精神疾患の臨床1)』神庭重信編、安田和幸・布村明彦ほか、中山書店。
  • 『専門医のための臨床精神神経薬理学テキスト』嶽北佳輝・安田和幸・青木宜篤・鈴木健文・木下利彦。
  • 『精神科臨床144のQ&A(精神科治療学 第33巻増刊号)』澤山恵波ほか、星和書店、2018年。
  • 『電気けいれん療法(ECT)推奨事項 改訂版』本橋伸高ほか、精神神経学雑誌、2013年。
  • 『ECTの麻酔管理(SPP-33)』大代洋輔・加藤奈々子、国立病院機構東京医療センター、2023年。
  • 『修正型電気けいれん療法について』佐野厚生総合病院。
  • 『Preparing Your Outpatient ECT』UCLA Health。
  • Semkovska M, McLoughlin DM. Biological Psychiatry, 2010.
  • Sackeim HAほか、Neuropsychopharmacology, 2007.
  • Rose Dほか、BMJ, 2003.

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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