朝、体重計に乗って以前より数字が増えていると、「デエビゴを飲み始めたせいかな」と気になるかもしれません。実際、デエビゴには体重増加の副作用報告があります。ただ、飲み始めてから体重が増えたことと、薬が原因だと分かることは同じではありません。臨床試験の数字を読み解くと、その違いがよく見えてきます。
1. デエビゴの副作用に「体重増加」はあります
まず、いちばん気になる問いにお答えします。デエビゴの添付文書には、体重増加が副作用として記載されています。食欲亢進も「1%未満」の欄に挙げられています。
もう少し具体的に見てみます。日本人を含む国際共同第Ⅲ相試験でデエビゴを服用した884人の集計では、体重増加が14人(1.6%)、食欲亢進が6人(0.7%)に副作用として報告されました。「太る副作用は書かれていない」という説明は、添付文書にも試験結果にも合いません。
では、飲んでいる人の約60人に1人は、デエビゴが原因で太るのでしょうか。ここは慎重に読みたいところです。1.6%は、一定の条件で参加者を選び、決められた方法で経過を確認した試験での報告割合です。これを、実際に服用するすべての人の「太る確率」に置き換えることはできません。
また、試験で薬との関係が疑われたことと、目の前の人の体重増加の原因が分かることは別の話です。
飲み始めてから変化に気づいたのなら、その順番は大切な手がかりです。薬が関係している可能性を最初から打ち消す必要はありません。一方で、薬を飲み始めた時期と体重が変わった時期が重なっただけでは、ほかの変化が関係していないかまでは分かりません。
ところが、同じ薬の長期試験を別の角度から見ると、少し意外な結果が出てきます。
2. 太った人がいるのに、平均体重は変わらない?
デエビゴの長期試験「SUNRISE 2」で調べていたのは、睡眠の状態だけではありません。診察や検査のときには、好ましくない症状の有無に加えて、参加者の体重も測っていました。
その論文には、集団の平均体重に、臨床的に重要といえる変化は認められなかったと記されています。ここまで読むと、「それなら太る心配はないのでは」と思うかもしれません。けれど、平均値の話と一人ひとりの変化は別です。
たとえば同じ集団に体重が増えた人と減った人がいれば、平均の動きは小さくなります。平均体重が大きく変わらなかったという結果は、全員の体重が変わらなかったという意味ではありません。
実際、承認審査の資料を開くと、違う数字が出てきます。参加者を偽薬(プラセボ)、デエビゴ5mg、10mgの各群に分けて比較した最初の6か月間には、体重の測定値で臨床的に重要といえる増加が、順に16人、14人、12人に記録されていました。薬を含まないプラセボ群にも、体重が増えた人がいたのです。
ここで、二つの「14人」を混同しないようにしましょう。前の節の「884人中14人(1.6%)」は、デエビゴの服用期間を通じて副作用として報告された人数です。一方、ここでの「5mg群14人」は、最初の6か月間に体重の測定値が一定の基準で変化した人数です。副作用の報告と、体重測定で見つかった変化は、同じ数え方ではありません。
後半の6か月間にも、薬との関係が否定できない体重増加が、5mgの集団で4人、10mgの集団で3人報告されています。ただし後半は、それまでプラセボだった参加者もデエビゴに切り替わるため、前半のようなプラセボとの比較はできません。
試験には、ほかの睡眠障害や十分に治療されていない病気などについて、除外条件も設けられていました。日常の診療では、飲んでいる薬も体調も人によって異なります。研究の数字を、一人ひとりにそのまま当てはめることはできません。
「副作用の報告がある」「体重が増えた人がいる」「集団の平均体重は大きく変わらない」。この三つは矛盾しません。どれも、体重の変化を違う角度から見ているのです。
3. 眠りを促す仕組みが、太る仕組みなのでしょうか
薬が原因かもしれないと思ったとき、次に気になるのは「どうして太るのか」という仕組みでしょう。
デエビゴの成分レンボレキサントは、「オレキシン」という物質が受容体に働きかけるのを妨げます。オレキシンは目覚めた状態を保つ働きに関わるため、その作用を抑えることで眠りに移りやすくすると考えられています。
ここで気をつけたいのは、眠りを促す仕組みが分かっていることと、体重が増える仕組みが分かっていることは別だという点です。添付文書や今回の試験資料は、オレキシン受容体への作用がどのような過程で体重増加につながるのかを、直接証明したものではありません。
薬を飲み始めてから食欲が変わった人も、翌朝の調子が変わった人もいるかもしれません。けれど、それぞれの変化を一本の線で結んで「だから太った」と説明できる研究結果は、今回確認した資料にはありません。
分からない部分が残っているからこそ、体重が増えた実感を軽く扱わず、薬の名前だけで結論を急がないことが大切です。次は、体重計以外のところにどんな変化があったかを見ていきましょう。
4. 翌朝まで眠気が残っていませんか
デエビゴを飲み始めてから体重が増えたと感じたとき、食事のことより先に思い出してほしい場面があります。朝、目覚ましが鳴ってからの時間です。夜は以前より眠れるようになった一方で、起きてから頭がはっきりするまで時間がかかる、午前中に眠気が残る、といった変化はないでしょうか。
デエビゴでは、翌朝以降にも眠気が続いたり、注意力や反応する力が落ちたりする場合があります。長期試験でも、眠気や疲労は副作用として報告されました。睡眠の状態が良くなっていても、翌朝の調子まで同じように良くなっているとは限りません。
たとえば、出かける予定を後ろにずらす日が増えた、家事を始める前にひと休みするようになった、と感じるかもしれません。そうした変化を体重と一緒に振り返ることには意味があります。厚生労働省の『健康づくりのための睡眠ガイド2023』でも、日中の身体活動と夜の睡眠は互いに関係するものとして扱われています。
ただし、ここから「薬で眠くなり、動かなくなったから太った」と結論づけることはできません。今回の資料では、そのつながりがデエビゴを飲む人の体重増加を引き起こしたという証拠は確認できませんでした。生活の変化は、原因を決める判定材料というより、診察で状況を一緒に考えるための手がかりです。
眠気や疲れが気になるなら、体重の相談とあわせて伝えてみてください。デエビゴの服用中は、車の運転など危険を伴う機械の操作をしないよう注意されています。日中の安全に関わる変化は、体重の理由が分かるのを待たずに相談してよいことです。
5. 食べる量だけでなく、生活の「時刻」も見てみましょう
体重が増えると、「最近、食べすぎたのかな」と考える人は少なくないでしょう。けれど、食べた量を反省するところから始めなくても大丈夫です。確かめたいのは、デエビゴを飲み始めた前後で、お腹がすく時間や食事の時刻が変わったかどうかです。
食欲が強くなることは、デエビゴの副作用として1%未満の欄に記載されています。ただ、夜にお腹がすくようになったと感じても、その変化を薬だけで説明できるとは限りません。夕食の時間が遅くなった、寝る前の間食が増えた、朝食を抜くようになった、といった出来事が同じ時期になかったかを思い返してみてください。
「時刻」を確かめたいのには理由があります。厚生労働省の睡眠ガイドでは、朝食は体内時計を整えることに関わり、就寝直前の夜食や間食は睡眠のリズムを遅らせ、翌朝の休養感にも影響すると紹介されています。何を食べるかだけでなく、いつ食べるかも睡眠と無関係ではありません。
もう一つ、平日と休日の違いも手がかりになります。『体内時計のふしぎ』で紹介されている調査では、平日と休日で睡眠の時刻が大きくずれていることと、BMIという体格の指標が高いことの間に相関が見られました。休みの日に長く寝たり起きる時刻が遅くなったりする暮らしを、平日の生活と並べて眺めてみる視点です。ただし、この相関はデエビゴで体重が増えることを示した研究ではありません。
朝に屋外で過ごす機会が変わったかどうかも、気づける範囲で振り返れば十分です。屋外の光は体内時計の調整に関わり、生活の時刻を考える材料になります。食事や外出の記録は、生活を採点するためのものではありません。眠れない日々を過ごしてきた人が、自分を責めるために見直す必要もありません。
6. 同じ時期に、ほかの薬も変わっていませんか
体重が気になり始めた頃、デエビゴ以外の薬が追加されたり、飲み方が変わったりしていなかったでしょうか。別の診療科で処方された薬や薬局で買った薬も含めて確認すると、デエビゴの効き方を考える手がかりになります。
デエビゴが体内で分解される過程には、「CYP3A」という酵素が関係します。たとえば一部の抗菌薬や抗真菌薬には、この酵素の働きを抑えてデエビゴの血中濃度を上げ、眠気などの作用を強める可能性があるものがあります。逆に、酵素の働きを促してデエビゴの作用を弱める薬もあります。組み合わせによって効き方が変わりうるので、新しく処方を受けるときはデエビゴを飲んでいることを伝えてください。
飲酒も確認したい点です。アルコールはデエビゴと重なると注意力などをさらに低下させる可能性があるため、服用時は避ける必要があります。また、食事中や食べ終わってすぐにデエビゴを飲むと、寝つきを助ける効果が現れるまでに時間がかかることがあります。この食事との関係は、体重が増える理由を説明するものではなく、服薬の状況を確かめるための情報です。
ここで挙げた飲み合わせや飲酒の話は、デエビゴで体重が増える仕組みが証明されたという意味ではありません。それでも、薬の量、飲む時刻、ほかの薬の変化を一緒に確かめると、睡眠や翌朝の様子をより具体的に話せます。体重のことだけを切り離さず、飲み始めてからの日常をひとつながりで振り返っていきましょう。
7. 「太りました」を、診察で話せる情報に変えましょう
「デエビゴを飲み始めてから太った気がします」と伝えるだけでも、十分に相談のきっかけになります。体重の変化を自分で証明したり、原因を一つに絞ったりする必要はありません。薬の影響が気になるという気持ちも、眠れるようになったという実感も、どちらも診察で話してよいことです。
もし少し整理できそうなら、次の四つを短くメモしてみてください。
- 体重の変化:増えたと感じた時期、覚えている範囲での増え方、デエビゴを飲み始めた時期を書きます。正確な記録がなくても、「飲み始めてしばらくして服がきつくなった」など、気づいたことから始められます。
- 睡眠と翌朝の状態:寝つきや夜中に目が覚める様子、朝の眠気や疲れを思い出します。平日と休日で寝る時刻や起きる時刻が違うかどうかも手がかりになります。
- 食事と日中の過ごし方:食欲、間食、朝食や夕食の時刻、外に出る機会や体を動かす時間に変化があったかを見ます。「以前より食べるようになった」でも「特に変わらない」でも構いません。
- 薬と飲酒:デエビゴの量と飲む時刻、ほかの処方薬や市販薬、飲酒の有無を整理します。別の医療機関で処方された薬や、最近買った薬も忘れずに含めます。
全部を埋める必要はありません。毎日の体重や食事を細かく記録するのが負担なら、覚えていることだけで十分です。書けなかった項目があっても、気にしなくて大丈夫です。
診察では、たとえば「飲み始めた頃から体重が気になります。夜は眠りやすくなりましたが、朝の眠気もあります。薬が関係しているか、今後の飲み方も含めて相談したいです」と伝えられます。睡眠がどう変わったかと困っていることを一緒に話すと、主治医も服薬の経過を確認しやすくなります。
ここで、「何kg増えたらデエビゴの副作用なのか」という線引きを探したくなるかもしれません。けれど今回確認した資料には、増えた量や日数だけで薬が原因だと判定できる基準はありません。服用をやめれば体重が元に戻ると断定できる資料も見つかっていません。
体重が気になるからといって、自己判断で薬をやめたり、量を減らしたりすることは避けましょう。不眠が改善しているときには、デエビゴを続ける必要があるかどうかも主治医と検討できます。
体重の増加を無視する必要はありませんし、すぐに薬だけのせいだと決める必要もありません。眠りが良くなったことと、体重や翌朝の調子が気になることは、同時に起こりえます。いくつかの事実を持ち寄って、これからの治療を一緒に考えていけばよいのです。
よくある質問
Q. デエビゴを飲んでから食欲が増えました。副作用でしょうか? 食欲亢進は添付文書に載っており、臨床試験でも報告されています。ただ、食欲が変わった時期と飲み始めた時期が重なっただけでは、薬が原因かどうかは決まりません。食事の時刻や間食などにも変化があったかを振り返り、気になる様子を主治医に伝えてください。
Q. デエビゴを5mgから10mgに増やすと、太りやすくなりますか? 今回の試験結果からは、「量を増やすほど太りやすい」とは結論づけられません。平均体重には用量に沿った明確な変化が認められなかった一方で、個人の体重増加は報告されています。眠気などの副作用が増える可能性はあるので、用量は自己判断で変えず、処方医と決めてください。
Q. 体重が増えたので、デエビゴをやめてもいいですか? 体重が気になることは、治療の続け方を相談する大切な理由になります。ただ、やめたあとに体重が戻るか、どのくらいで変わるかは、今回の資料では分かりません。自分で中止する前に、睡眠の改善と体重の変化を主治医に一緒に伝え、続ける必要があるかを相談しましょう。
参考にした資料(要約・再構成。原文の転載ではありません)
- エーザイ株式会社『デエビゴ錠 添付文書』2025年。
- エーザイ株式会社『デエビゴ錠 医薬品インタビューフォーム』。
- 医薬品医療機器総合機構『デエビゴ錠 審査報告書』2019年。
- Kärppä M. ほか「Long-term efficacy and tolerability of lemborexant compared with placebo in adults with insomnia disorder: results from the phase 3 randomized clinical trial SUNRISE 2」『Sleep』43巻9号、2020年。
- 明石真『体内時計のふしぎ』光文社、2013年。
- 厚生労働省『健康づくりのための睡眠ガイド2023』2024年。