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頭痛の原因を調べていただけなのに、気づけば脳腫瘍の体験談を読み続けていませんか。安心したくてスマートフォンを開いたはずが、検索する前より怖くなってしまうことがあります。こうした状態を考えるときに大切なのは、調べた時間の長さよりも調べたあと、気持ちが落ち着いて生活に戻れたかどうかです。今回は「サイバー心気症」の仕組みと、病気不安症を考えるためのセルフチェックを紹介します。

1. 調べるほど怖くなるのはなぜ?

「サイバー心気症」という言葉があります。インターネットを意味する「サイバー」と、病気への強い不安を表す「心気症」を組み合わせた言葉です。

ただし、これは独立した病気の診断名ではなく、健康への不安からネットで情報を探し、その検索でかえって不安が強まるという、行動と気持ちの関係を表しています。

たとえば、朝から頭が重いと感じたとします。

最初は「寝不足のせいかな」と思っていても、仕事の休憩中に「頭痛 原因」と検索します。いくつかの記事を読むうちに、重大な病気の可能性が気になってきます。さらに詳しく調べると、知らなかった病名や怖い症状が次々と出てきます。

スマートフォンを閉じても、今度は「さっきの記事に書いてあった症状が自分にもあるかもしれない」と考えてしまいます。そして、また検索を始めます。

ここでは二つのことが起きています。

一つは、もともと病気が心配だから検索していることです。もう一つは、検索で新しい情報に触れることで、心配がさらに大きくなっていることです。

研究では、この二つは互いに影響し合う関係だと考えられています。

もちろん、健康について調べること自体は自然な行動です。検索で必要な情報がわかり、安心できる場合もあります。

問題になるのは、安心するために始めた検索が、次の不安を生み出している状態です。

調べるほど不安になるのなら、知識が足りないことだけが原因とは限りません。情報を受け取るときの心の動きにも目を向ける必要があります。

では、なぜ検索していると、最初は考えてもいなかった重大な病気まで気になってくるのでしょうか。

2. 頭痛を調べていたのに、なぜ脳腫瘍が気になる?

「頭痛 原因」と入力すると、さまざまな病気や体調の変化についての情報が出てきます。

最初は寝不足や脱水などの説明を読んでいても、途中で「脳腫瘍」という文字が目に入るかもしれません。すると今度は「脳腫瘍 初期症状」と検索し、さらに「脳腫瘍 見逃し」「脳腫瘍 体験談」と調べてしまいます。

頭痛全般を調べていたはずが、いつの間にか特定の重大な病気を調べることへと目的が変わっています。

このように、ありふれた症状についての検索がより深刻な病気へと移っていく現象は、「検索のエスカレーション」と呼ばれています。

ここで知っておきたいことがあります。

検索結果の上のほうに表示される病気が、自分にとって最も可能性の高い病気とは限りません。

検索結果の表示順位は、医学的な診断の順位とは違います。それでも不安が強いときには、目立つ場所に出てきた病名を、自分に関係の深いものとして受け取ってしまうことがあります。

また、ネット上の医療情報は信頼性もさまざまです。何を根拠に書かれているかを十分に確かめないまま、怖い説明だけが印象に残ることも考えられます。

実際に、検索ログを分析した研究では、ありふれた症状の検索が重い病気の検索へ移る例が確認されています。

ただし、検索ログだけでは、検索した人の不安が実際に強まったかどうかまではわかりません。

一方、別の実験研究では、検索内容が重大な病気へ移った場合は、そうならなかった場合よりも不安が高くなるという結果が報告されています。

つまり、検索内容が深刻になっていく現象は確認されており、不安との関係も研究されていますが、その仕組みがすべて解明されたわけではありません。

自分の検索を振り返るときには、最初に入力した言葉と最後に入力した言葉を比べてみてください。

「頭痛の原因を知りたい」と思っていたのに「脳腫瘍ではない証拠を見つけたい」に変わっているなら、検索の目的そのものが動いているのかもしれません。

そして、この「病気ではない証拠を探す」という行動には、もう一つ厄介なところがあります。

3. 安心したはずなのに、また検索したくなる

「この症状なら重大な病気の可能性は低そうです」

そんな説明を見つけて、ようやく安心できたとします。スマートフォンを閉じて、別のことを始めます。

ところが、しばらくすると「でも、例外だったらどうしよう」と気になってきます。

もう一度検索して、別のサイトでも確認します。そこでも安心できる説明を見つけますが、今度は「本当に信用できる情報なのかな」と疑問が浮かびます。

こうして、安心するための確認が繰り返されます。

健康への不安が強いとき、ネット検索は不安を和らげるための「確認行動」として働くことがあります。

たとえば、皮膚に気になる変化を見つけた人が、悪性の病気ではないという確かな証拠を求めて、何時間も検索し続ける場合があります。

しかし、ネットの記事をいくら読み比べても、自分の皮膚について完全な確証が得られるとは限りません。

そのため、安心を求めて調べ続けることが、かえって心配を長引かせることがあります。

似た仕組みは検索以外にも見られます。身体の状態を繰り返し確かめたり、家族に「大丈夫だよね」と何度も尋ねたり、医師に安心できる説明を求めたりする行動です。

どれも不安を減らそうとしての行動で、実際に一時的には気持ちが落ち着くこともありますが、安心が長続きしないと再び確認したくなります。

興味深いのは、検索すると毎回不安が強くなるわけではないことです。

研究では、ときどき得られる安心感や、自分で状況を確かめられたという感覚が、検索を続ける理由になっているのではないかという仮説も示されています。

これは検索を繰り返す理由の一つとして提案されている考え方で、すべての人に当てはまると証明されたものではありません。

それでも「検索して後悔するのに、また調べたくなる」という体験を理解する手がかりになります。

検索をやめられないのは単に意志が弱いからではなく、不安を何とかしたくて続けてきた行動が、いつの間にか次の不安と結びついているからかもしれません。

ただし、検索によって本当に安心できる人もいます。同じように病気を調べているのに、何が違うのでしょうか。

4. 検索して楽になる人もいます。何が違うのでしょう?

ここまで読むと、病気についてネットで調べることは全部やめたほうがよいように思えるかもしれません。

けれども、実際はそう単純ではありません。健康について検索したあと、不安がやわらいだり、落ち着いた気持ちになったりする人もいます。ある研究では、検索後に不安が軽くなった人が約4割いました。別の研究では、さらに多くの人が安心したと答えています。調査の対象や尋ね方が違うため、この割合をそのまま誰にでも当てはめることはできません。

同じ「頭痛 原因」という検索でも、必要な情報を得てスマートフォンを置ける人もいれば、記事を一つ読み終えるたびに新しい疑問が浮かぶ人もいます。

違いを考える手がかりの一つが、答えがはっきりしない状態を、どれくらいつらく感じるかです。

ネットには、一つの症状について複数の可能性が並んでいます。「絶対に違うとは言い切れない」という曖昧さが苦手なほど、健康情報の検索と不安の強さが結びつきやすいという研究結果があります。ただし、検索した人が必ず不安になるという意味ではありません。

もう一つ見てほしいのは、検索のあとに何が起きているかです。不安の強い人ほど、同じ症状を繰り返し調べたり、いくつものサイトを回ったり、ほかの活動を途中でやめて調べたりする傾向が報告されています。

そこで、自分の検索を次の三つの問いで振り返ってみてください。

  1. 検索を終えたあと、心配は軽くなりましたか。 それとも、新たな病名が気になっていますか。
  2. 同じ症状を何度も調べ直していませんか。 安心できる説明を見つけても、別の説明を確かめたくなりますか。
  3. 検索のために、しようとしていたことを中断していませんか。 調べ終わるまでほかのことに戻れなくなっていませんか。

これは診断のための採点ではなく、検索に何分使ったかより、検索を終えた自分がどんな状態にいるかを確かめるための問いです。

5. 病気不安症かどうか、六つの問いで振り返る

では、検索が不安を大きくしているとき、それは「病気不安症」なのでしょうか。

サイバー心気症はネット検索と健康不安の悪循環を表す言葉ですが、病気不安症は医療で用いる診断名です。検索を繰り返すだけで病気不安症になるわけではありません。

病気への心配の内容、身体の症状、不安に伴う行動、続いている期間などを合わせて考えます。

次の六つは、DSM-5の診断基準を日常の言葉に置き換えたものです。今の自分が何に困っているのか、順に振り返ってみてください。

確認したい六つのこと

  1. 重大な病気にかかっている、あるいはこれからかかるという考えが、頭から離れませんか。

    何となく健康が気になるという程度を超えて、重い病気への心配が繰り返し浮かんでいないでしょうか。心配する病名が一つに決まっているとは限りません。

  2. 身体に目立った症状がない、または症状が軽いのに、病気への不安が非常に強くなっていませんか。

    病気不安症では、身体症状がないか、ごく軽いことが診断の手がかりになります。実際に身体の病気がある場合でも、不安がその病気の状態と明らかに釣り合わないときは、病気不安症を併せて検討することがあります。

  3. 健康のことを考えると、すぐに強い恐怖や不安が湧いてきませんか。

    少し体調が変わっただけで重大な病気を思い浮かべたり、健康についての情報に触れた途端に怖くなったりすることはあるでしょうか。不安の起こりやすさに目を向ける問いです。

  4. 身体を何度も確認したり、反対に検査や病院を避けたりしていませんか。

    病気の徴候を探して身体を調べ続ける人もいれば、病気が見つかることを恐れて受診から遠ざかる人もいます。確認することと避けることは反対に見えても、どちらも健康不安と関係する行動です。

  5. 病気への強い心配が、6か月以上続いていませんか。

    先月はがんが心配で、今月は別の重い病気が気になっているというように、怖い病名が変わる場合もあります。診断基準では、特定の病名への心配が固定されているかよりも、病気へのとらわれ自体が続いているかを見ます。

  6. その不安について、ほかの身体の病気や精神的な状態も含めて考える必要はありませんか。

    ここは自分だけでは判断しにくい部分です。病気不安症を考える際には、実際の身体疾患を評価するとともに、身体症状症やパニック症、強迫症など、ほかの状態で説明できないかも診察で確認します。

「4個当てはまったら病気」ではありません

六つの問いは診断基準の考え方を知るためのもので、当てはまった数から結論を出すテストではありません。特に、気になる身体症状がある場合は、その症状自体の医学的な評価を省くことはできません。

健康不安の強さを測る質問紙には、SHAIなどがあります。

ただ、質問紙で高い点数が出ることと、病気不安症と診断されることは別です。質問紙は不安の程度を知る手段で、診断では面接を通して症状や行動の背景まで確かめます。

たとえば、14項目のSHAIを調べたスウェーデンの研究では、精神科の患者さんを対象にする場合と、精神疾患が比較的少ない集団で調べる場合とで、適切な点数の境界が異なりました。

その数字を日本語のセルフチェックに持ち込んで、「何点以上なら病気」と決めることはできません。

大切なのは、何問に丸がついたかではなく、心配がどれほど強く、どれほど長く続き、確認や回避にどれほど生活を占められているかです。

そして、健康への不安が強い人が、必ず病院に何度も通っているとは限りません。

むしろ、怖くて受診できなくなる人もいます。

6. 病院に何度も行く人と、怖くて行けない人

「異常はないと言われたのに、また病気が心配になる」人もいれば、「何か見つかるのが怖くて受診できない」人もいます。

病気不安症には、繰り返し診察や検査を求める「医療を求める病型」と、受診を避けがちな「医療を避ける病型」があります。行動は正反対でも、どちらにも重い病気への恐れがあります。

しかも、二つの行動は一人の中で入れ替わることがあります。ある研究では、病気不安症の人の61%が、医療を求める時期と避ける時期の両方を経験していました。これは一つの研究の結果で、誰もがそうなるという意味ではありません。

検査結果を待つ間は「調べてほしい」と願い、次に不安が浮かぶと「悪い結果が怖い」と受診を避けるかもしれません。受診回数だけでは心配の重さは測れません。

健康について心配になることは誰にでもあります。気になっても普段の活動に戻れるでしょうか。それとも、病気のことが長く頭を占めて、生活に支障が出ているでしょうか。この違いに目を向けてください。

そして、健康への不安が強い人にも、実際に身体の病気があることはあります。 新たな身体症状を「自分は検索しすぎるから」と片づけず、その症状の医学的な評価と、心配の続き方についての相談を分けて考えてください。

7. 受診を考える目安は、検索回数より「生活に戻れるか」

最初の頭痛の話に戻りましょう。寝る前に調べ始め、怖い病名を次々と検索します。画面を閉じても、頭の中では検索が続いています。

受診の目安は検索回数だけでなく、心配が続いて生活に支障が出ているかどうかです。

安心できる説明を読んでも、同じ症状を調べ直してしまいます。何度も身体を確かめ、家族にも大丈夫かと尋ねます。仕事や家事を止めてまで調べてしまい、受診したい日もあれば、怖くて予約できない日もあります。

こうした状態が続くなら、健康不安そのものを相談してよいでしょう。気になる身体症状の医学的な評価も大切です。身体の問題を調べることと、不安による生活への影響を相談することは両立します。

健康不安に対する認知行動療法では、「その症状は重大な病気の証拠だ」という考え方を見直すだけでなく、身体の感覚に注意を向けすぎること、何度も確かめること、安心を求め続けること、怖くて避けることにも取り組みます。検索に費やす時間を振り返り、行動を変えて確かめる方法も研究されています。

診察でうまく説明できるか不安なら、三つだけメモしてみてください。心配な病気、検索前後での不安の変化、そのために生活の中で止まっていることです。病名を正確に並べるより、自分に起きていることが伝わる材料になります。

検索を全面的に禁止する必要はなく、調べて生活に戻れるなら、その検索は役立っていることが多いでしょう。知識が増えるほど安心が遠のくなら、検索以外の方法にも目を向けてみてください。

大切なのは調べた量より、調べたあと自分の生活に戻れているかどうかです。

よくある質問

Q. サイバー心気症と病気不安症は同じものですか?

同じではありません。サイバー心気症は検索と健康不安の悪循環を表す言葉で、診断名ではありません。病気不安症については、心配の内容、身体症状、確認や回避の行動、持続期間などを診察で確かめます。

Q. ネットのセルフチェックで点数が高ければ、病気不安症ですか?

点数だけでは診断できません。質問紙は健康不安の程度を測るもので、診断には面接も必要です。海外の研究でも点数の境界は対象や目的によって異なり、日本語の自己診断にはそのまま使えません。

Q. 検査で異常がなかったのに、また病気が心配になります。どうすればよいですか?

確認を繰り返すことが、長い目で見ると不安を保つことがあります。心配が戻る場面や、検索や身体の確認が生活に及ぼす影響を、診察で伝えてみてください。新たな身体症状については、別に医学的な評価が必要です。

参考にした資料(要約・再構成。原文の転載ではありません)

  • Schenkel SK ほか.Conceptualizations of Cyberchondria and Relations to the Anxiety Spectrum: Systematic Review and Meta-analysis.Journal of Medical Internet Research,2021.
  • White RW・Horvitz E.Cyberchondria: Studies of the Escalation of Medical Concerns in Web Search.ACM Transactions on Information Systems,2009.
  • Kikas K ほか.Illness Anxiety Disorder: A Review of the Current Research and Future Directions.Current Psychiatry Reports,2024.
  • Österman S ほか.The 14-item short health anxiety inventory (SHAI-14) used as a screening tool.BMC Psychiatry,2022.
  • 『今日の精神科治療ハンドブック2021』林田和久・松永寿人,2021.
  • American Psychiatric Association『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』.
  • Clark DA・Beck AT.Cognitive Therapy of Anxiety Disorders: Science and Practice.The Guilford Press,2010.

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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