福岡県春日市須玖北4丁目34 2階
休診日: 水曜・木曜・日曜・祝日

「うつ病の治療なのに、抗精神病薬を追加するんですか」。そう聞いて、自分の診断が変わったのではないかと戸惑う方がいます。レキサルティ(一般名ブレクスピプラゾール、大塚製薬)は、2023年12月22日に、これまでの治療だけでは十分に改善しないうつ病・うつ状態にも使えるようになりました。名前への不安はいったん脇に置いて、何のために追加する薬なのかを見ていきましょう。

1. 「抗精神病薬」という名前だけで、診断は決まりません

薬の説明を受けたあと、家で調べて「抗精神病薬」の文字を見つけると、診察室では聞かなかった病名まで頭に浮かぶかもしれません。「自分は統合失調症だったのでしょうか」と聞きたくなるのも自然なことです。

けれども、薬の分類名は、その薬を飲む人の診断名ではありません。 抗精神病薬に分類される薬が、うつ病の治療に使われることもあります。レキサルティには、まさにその使い方が承認されています。処方されたという事実だけで、統合失調症と診断されたことにはなりません。

では、なぜ一つの薬が異なる病気に使われるのでしょうか。薬は病名そのものに働きかけるのではなく、体内のさまざまな受容体に作用します。ブレクスピプラゾールが働くのは、ドパミンのD2受容体や、セロトニンの5-HT1A、5-HT2A受容体などです。D2と5-HT1Aでは「部分作動薬」として作用し、5-HT2Aでは受容体の働きを妨げます。

「部分作動薬」の働きは、スイッチを完全に入れるか切るかという二択では捉えにくいものです。受容体に結びついても、その働きを最大限まで引き出すとは限らない、というイメージです。同じくD2受容体に部分作動薬として働くアリピプラゾールとは、セロトニン受容体への働きかけやD2受容体での作用の強さに違いがあります。ただし、その違いだけで、うつ病にはどちらが優れていると結論づけることはできません。

おもしろいことに、受容体への作用が分かっていても、そこから実際の症状の改善につながるまでの道筋は、まだはっきりしていません。仕組みを知るのは大事なことですが、それだけで治療の成果まで言い当てることはできないのです。だからこそ、薬の分類名より「今回の治療で何を改善したいのか」のほうが大切になります。

2. どんなときに、レキサルティを追加するのでしょうか

「いまの抗うつ薬で治りきらないなら、次はレキサルティですか」。必ずしもそうとは限りません。抗うつ薬を一度飲んで期待したほど変化がなかったというだけで、すぐに追加する薬ではないからです。

対象になるのは、SSRIやSNRIなどによる適切な治療を何度か行っても、なお十分な改善が得られなかった場合です。薬の名前だけでなく、これまでの治療をどのように進め、どこまで改善したかが判断の土台になります。

国内で効果を確かめた試験には、現在のうつ病の経過の中で、適切な抗うつ薬治療を1〜3回受けても反応が不十分だった人が参加しました。さらに試験の中で、それまでとは別の抗うつ薬を使っても十分に改善しなかった人を対象に、レキサルティを加える効果を調べています。「抗うつ薬が効きにくい」という一言の裏には、どの薬をどのように試したかという経緯があるわけです。

もう一つ、「効かなかった」にも幅があります。治療を受けてもほとんど変わらなかった場合と、少し楽にはなったものの、そこから改善が止まっている場合とでは、次に選ぶ方法が変わってきます。治療指針でも、十分な量まで調整してなお反応が乏しければ抗うつ薬の変更を、部分的に改善したあとで停滞していれば薬を追加する増強療法を考える、と整理されています。

レキサルティの追加は、そうした増強療法の一つです。「薬が増えた=診断が重くなった」と受け取るより、残っている症状に対して何を試すかという判断として考えると、処方の意図が見えやすくなります。

もちろん、追加だけが答えではありません。落ち着かなさや不随意運動などの副作用を考え、ほかの治療も含めて選びます。また、三環系抗うつ薬を単独で使う方法と、SSRI・SNRIにレキサルティを追加する方法のどちらがよいかを直接比較した試験結果はありません。治療法同士の優劣まで分かったわけではないのです。

3. 抗うつ薬をやめて、レキサルティに替えるのでしょうか

「薬を追加する」と聞いても、今の薬をやめて新しい薬に替えるのか、二つを一緒に飲むのかは気になるところです。うつ病に対するレキサルティの使い方は、抗うつ薬への上乗せです。

組み合わせるのは、SSRI、SNRI、またはミルタザピンです。レキサルティだけを飲む治療については、うつ病に対する有効性が確認されていません。抗うつ薬をレキサルティに置き換えるのではなく、現在の抗うつ治療に別の働きの薬を加えて、残る症状の改善を目指します。

成人の通常量は、1日1回1mgです。1mgで十分な効果が得られず、副作用などの面でも服用を続けられると判断できる場合に限り、1日2mgまで増やせます。「もっと効かせたいから最初から多めに」という使い方はしません。なぜ1mgを基本とするのかは、後で試験結果と一緒に見ていきます。

錠剤のほかに、口の中で崩れるOD錠もあります。OD錠は舌の上で唾液に触れると崩れるので、水なしでも飲めます。ただし、口の粘膜から吸収させる薬ではないため、崩れたあとは唾液か水で飲み込みます。寝たまま水なしで飲むと、薬が食道に付着して炎症を起こすおそれがあるので、その飲み方は避けます。

飲み忘れに気づいたら、その時点で1回分を飲みます。ただし、次の服用時刻が近ければ忘れた分はとばし、次の時刻に1回分を飲みます。2回分をまとめて飲むことはしません。

薬が一つ増えると、飲み方を覚え直すだけでも負担になります。それでも、今回の追加が「抗うつ薬の交代」なのか「効果を補う併用」なのかが分かっていると、これから何を確かめながら治療を続けるのかが少し整理しやすくなります。

4. 6週間の試験で、どのくらい改善したのでしょうか

「効果があると聞いても、どのくらい変わるのでしょうか」。レキサルティの国内試験は、その問いを考える手がかりになります。ただし数字を見るときには、平均的な症状の変化と、一人ひとりが十分に回復した割合を分けて読む必要があります。

試験に参加したのは、20歳以上65歳未満で、それまでの抗うつ薬治療では改善が不十分だった大うつ病性障害の人740人です。SSRIまたはSNRIによる治療を続けながら、レキサルティ1mg、2mg、あるいは有効成分のないプラセボを追加し、6週間比較しています。本人にも評価者にも、どの薬を使っているか分からない方法で行われました。

主な評価には、うつ症状の程度を点数で表すMADRSという尺度が使われました。6週後の点数の変化は、プラセボ群が平均−6.7点、レキサルティ1mg群が−8.5点、2mg群が−8.2点でした。どの群でも点数は下がりましたが、レキサルティを加えた両群では、プラセボ群との間に統計学的な差が確認されました。

では、「飲めば回復する人が明らかに増えた」とも言えるのでしょうか。試験では、症状が一定以上改善した人の割合を「反応率」、症状が十分に軽くなった人の割合を「寛解率」として調べています。反応率はプラセボ群18.9%、1mg群25.4%、2mg群24.5%でした。寛解率はそれぞれ13.6%、17.7%、17.6%でしたが、これらの割合についてはプラセボとの統計学的に有意な差は確認されませんでした。一方、生活機能をみるSDSという指標では、両用量で差が認められています。

平均の症状点数が改善したことと、誰もが十分に回復することは別です。 6週間というのも試験で比較した時点であって、6週間たたないと効き始めないという意味ではありません。診察では、点数だけでなく、期待していた変化が実際に得られているかを確かめることが大切になります。

5. 2mgに増やせば、もっと効くのでしょうか

1mgで十分に効かなければ、2mgに増やしたほうがよさそうに思えるかもしれません。ところがレキサルティの国内試験では、1mgと2mgの効果は同程度でした。先ほどの症状点数の変化を見ても、2mgが1mgを上回ってはいません。

審査の際にも、2mgに増やすことで特に高い効果が期待できる人の特徴は明らかにできませんでした。2mgが1mgより優れていると確認されたわけではないのです。それでも2mgが認められているのは、1mgである程度の反応があっても十分とは言えない場合に、増量を検討する余地があるためです。

一方、副作用の数字にははっきりとした違いがありました。国内試験で副作用が報告された割合は、プラセボ群22.5%、1mg群33.6%、2mg群52.4%でした。なかでもアカシジアという落ち着かなさは、プラセボ群1.2%、1mg群6.0%、2mg群23.6%でした。これは薬との関連が副作用として集計された数字で、関連を問わず記録する「有害事象」全体の割合とは別のものです。

2mgでは、副作用が増える一方で、平均的な効果が1mgより高いとは示されませんでした。この結果を踏まえて、国内では1日1回1mgが基本とされ、2mgへの増量は慎重に判断することになっています。2mgは、1mgの上位版というわけではありません。

増量が必要かどうかを考える目安は、1mgを始めてから約6週間です。増量するのは、1mgで十分な効果がなく、服用を続けられる状態にある場合に限られます。2mgにした後は副作用をより丁寧に確認し、さらに約6週間を目安に、その量を続ける意味を見直します。増やすかどうかと、増やした後に続けるかどうかは、別々の判断なのです。

6. 「じっとしていられない」は、見逃したくない変化です

薬を追加した後に「何だか前より落ち着かない」と感じても、うつ病や不安のせいだと思ってしまうかもしれません。けれどもレキサルティでは、そうした変化が薬の副作用である可能性も考える必要があります。

アカシジアは、じっと座っていることが難しくなるような落ち着かなさです。国内試験では2mg群でとくに多く報告されました。「気持ちが焦って仕方がない」「じっとしているのがつらい」という言葉も、診察で伝える価値があります。本人がうまく説明できなければ、家族が「薬を始めてから、立ったり座ったりすることが増えました」と具体的に伝えるのも一つの方法です。

注意したい変化は、体のそわそわ感だけではありません。不安やいらいらが強くなる、急に興奮する、衝動的な行動が増える、パニックのような状態になるといったこともあります。こうした変化と元の病気の症状との関係を、本人だけで決めつけなくて構いません。いつ頃から何が変わったかを伝えることが、治療を見直す材料になります。

もう一つ、長く使うときに確認したいのが遅発性ジスキネジアです。口元や舌、顔、手足などが自分の意思とは関係なく動く症状で、薬をやめた後も続くことがあります。レキサルティの用量と期間を必要最小限にするのは、こうした副作用の可能性を考えてのことでもあります。

飲み始めや用量を変えたときには、気持ちの落ち込みが強くなったり、死にたい気持ちが現れたりしていないかにも目を向けます。24歳以下では、抗うつ薬の投与に伴って自殺念慮や自殺企図の危険が高まるという報告があり、併用するレキサルティについても利益と危険を慎重に考えます。もし気持ちが急につらくなっても、それを本人の弱さや努力不足と捉える必要はありません。変化があれば早めに主治医へ伝え、差し迫った危険があるときは119番に連絡してください。

薬が役立っているかを確かめることと、副作用の兆しを見つけることは、一緒に進められます。「前より落ち着かない」という感覚も、我慢してやり過ごすだけのものではなく、治療を考えるための大切な情報です。

7. 体重や眠気だけではない、暮らしの中の変化

副作用を確かめるとき、体調の変化だけを尋ねても見つからないことがあります。レキサルティでは、体の変化と同じくらい、日々の行動にも目を向けたいところです。

まず、眠気に加えて、注意力や集中力、反射の働きが低下することがあります。服用中は、自動車の運転や危険を伴う機械の操作をしないよう注意されています。眠気を強く感じない日でも、運転してよいと判断できるわけではありません。

国内試験では、体重増加が1mg群5.6%、2mg群6.5%、プラセボ群1.6%に認められました。手が震える振戦や、血液検査で分かるプロラクチンの増加も報告されています。体重だけでなく、脂質や血糖の変化も確認する理由があります。特に、喉がひどく渇く、水を飲む量が増える、尿が近くなるといった変化は高血糖の手がかりになるので、速やかに診察を受ける必要があります。

意外に思われるかもしれませんが、ギャンブルや買い物、性的な行動、食べることへの衝動を自分で抑えにくくなったという報告もあります。本人に「以前と違う」という自覚がない場合もあります。だからといって、家族が行動を責めたり問い詰めたりする必要はありません。「最近、買い物の回数が増えています」「食べ方が前と変わりました」と、目に見えた変化をそのまま伝えるほうが役に立ちます。

飲み始めや増量の後の立ちくらみ、食事中にむせる・飲み込みにくいといった変化も、伝えておきたいことです。副作用を見つける意味は薬を怖がることにはなく、治療の助けになっている部分と暮らしに負担をかけている部分の両方を確かめることにあります。

8. 一緒に飲む薬によって、同じ1mgでも条件が変わります

「うつ病では1日1mgが基本」と聞くと、誰でも同じ条件で飲めると思うかもしれません。しかし同じ量でも、体の中で薬が分解される速さは、併用薬や持病によって変わります。

レキサルティは主に、肝臓のCYP2D6とCYP3A4という酵素の働きで代謝されます。パロキセチン、クラリスロマイシン、イトラコナゾールなど、これらの酵素の働きを妨げる薬と一緒に使うと、レキサルティの血中濃度が高くなることがあります。こうした併用は可能な限り避け、必要な場合には組み合わせに応じて量を少なくしたり、服用の間隔を延ばしたりします。同じ「1mg」という数字でも、ほかの薬を無視して決められるわけではないのです。

重度の腎機能障害や中等度以上の肝機能障害がある場合も、薬の血中濃度が高くなるおそれがあり、量や間隔の調整を考えます。高齢の方では、体の状態を見ながら慎重に使います。妊娠中や妊娠している可能性がある場合には、治療によって得られる利益が危険性を上回ると判断されるときに限って使用します。

飲み合わせには、少し複雑な決まりもあります。アドレナリンは原則として併用できませんが、アナフィラキシーの救急治療や、歯科での浸潤麻酔・伝達麻酔に用いる場合は例外です。「アドレナリンは全部だめ」と覚えるより、受診先にレキサルティを飲んでいることを伝えるのが確実です。

薬の名前と量だけでなく、別の診療科で処方されている薬、腎臓や肝臓の病気、妊娠の可能性なども、今回の処方を考える材料になります。飲み合わせの確認は、治療の前後を通じて続いていきます。

9. 効果があれば、ずっと続ける薬なのでしょうか

薬を追加するときには、「効いたら、いつまで飲むのでしょうか」という疑問も一緒に持っていてよいと思います。レキサルティは、効果が得られるかどうかだけでなく副作用の負担も見ながら、量と期間を必要最小限にする薬です。

国内では52週間の長期試験も行われています。ただしこの試験は、参加者全員がどの治療を受けているか分かる非盲検試験でした。対象の247人のうち、52週時点で症状を評価できたのは138人です。長期間の観察結果があることと、誰もが長く飲み続けたほうがよいことは同じではありません。

診察で確認したいことは、三つに絞れます。「これまでの治療のどこが不十分で追加するのか」「何が改善すれば役立ったと判断するのか」「副作用と継続の必要性をいつ見直すのか」です。

抗精神病薬という分類名だけで、診断が変わったと考える必要はありません。追加する理由、増量する理由、続ける理由を、その時々の効果と負担から確かめていくことが大切です。

よくある質問

Q. レキサルティが処方されたら、統合失調症ということですか?

いいえ。レキサルティは抗精神病薬に分類されますが、複数回の適切な抗うつ薬治療で十分に改善しなかったうつ病・うつ状態にも承認されています。薬の分類名だけでは診断は決まりません。

Q. 1mgで効かなければ、2mgに増やしたほうがよいですか?

2mgのほうが1mgよりよく効くとは確認されていません。国内試験では効果が同程度だった一方、2mgで副作用が多くみられました。増量は1mgを始めて約6週間を目安に、効果と副作用の両方を見て慎重に判断するものなので、自分で量を増やさないでください。

Q. レキサルティを飲み忘れたら、次に2回分を飲んでもよいですか?

2回分をまとめて飲まないでください。気づいたときに1回分を飲みますが、次の服用時刻が近ければ忘れた分をとばし、次の時刻に1回分を飲みます。

参考にした資料(要約・再構成。原文の転載ではありません)

  • 『ジェネラリストのための 向精神薬の使い方』宮内倫也、日本医事新報社、2022年。
  • 『レキサルティ錠1mg・2mg/OD錠0.5mg・1mg・2mg 医薬品インタビューフォーム 第12版』大塚製薬株式会社(作成・発行)、2025年。
  • 『レキサルティ うつ病・うつ状態 審査報告書』医薬品医療機器総合機構(PMDA)、2023年。
  • 『レキサルティ錠1mg/2mg 患者向医薬品ガイド』大塚製薬株式会社(作成)、PMDA掲載、2024年。

このテーマの記事を探す

執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

WEB予約