「人付き合いはできるのに、帰宅すると何もできない」「子どもの頃は問題ないと言われていたけれど、ずっと無理をしていた気がする」。大人になってASD(自閉スペクトラム症)の特徴を調べ始めると、そんな話に目が留まるかもしれません。ただし、「あるある」に当てはまることと、ASDの診断がつくことは別です。今の疲れ方を手がかりに、子どもの頃からの自分を少し丁寧に振り返ってみましょう。
「普通に話せます」の裏で、何をしている?
初対面の人と話すとき、相手の表情を見て笑うタイミングを決め、次に何を話すか考えながら、視線を外しすぎないよう気を配ります。会話が終われば、周囲からは「感じのいい人」に見えるかもしれません。けれど本人にとっては、ずっと頭を働かせていた時間だったという場合があります。
ASDのある人が周囲の振る舞いに合わせて自分の特性を見えにくくする工夫は、「カモフラージュ」と呼ばれます。誰かの話し方や身ぶりをまねたり、場面に合う表情を意識して作ったり、目を合わせる位置を考えたりします。相手への質問を増やすのも一つの方法で、相手が話している間に自分の返事を組み立てられます。
服装や趣味まで周囲に寄せる人もいれば、音や人混みに圧倒されても平静を装い、理由をつけてその場を離れる人もいます。こうした工夫は、その人なりに人間関係を築こうとして身につけた知恵でもあります。その一方で、外から見える姿と内側の負担が離れていくことがあります。
成人を対象にした聞き取り研究では、周囲に合わせ続けて消耗する話が繰り返し語られました。気を配る時間が長くなるほど続けるのが難しくなり、あとで一人になって休みたくなるという声もあります。会話が成立したかどうかだけでは、その会話にどれほど力を使ったかは見えません。
ただ、カモフラージュは女性だけに起こるものではありません。研究によっては女性の平均値が高く出ることもありますが、一人ひとりの違いは大きく、性別だけで見分けることはできません。大切なのは「女性のASDならこうするはず」と当てはめることより、自分が何を意識して行い、そのあとどう感じるかを確かめることです。
女の子の頃、家では困らなかったのに
子どもの頃を思い出そうとしても、「特に問題はなかった」と言われてきた人はいるでしょう。家では好きなことをして過ごし、家族も好みや苦手を分かってくれていたのかもしれません。ところが保育園や学校に入ると、決められた時間に大人数で動き、遊びの相談をして、次々に変わる相手に合わせる必要が出てきます。家では自然に過ごせた子が、集団の中で初めて困ることもあります。
振り返るときは、「目を合わせられたか」「友達がいたか」と答えを一つに決めず、具体的な場面を思い出すと手がかりになります。
| 振り返る場面 | 思い出してみたいこと |
|---|---|
| 視線 | 人の目を見るのがつらかったか、どこを見ればよいか意識していたか |
| 会話 | よく話していても、聞いた言葉の意味や場面に合う使い方で戸惑うことはなかったか |
| 友達 | 一緒に遊びたいのに、輪に入るタイミングや距離の取り方を難しく感じなかったか |
| 遊び | ごっこ遊びのせりふを自分で考えたか、番組や実際の会話を繰り返していたか |
| 好きなもの | 同じ本や歌、番組を何度も楽しみ、細かい内容まで覚えていたか |
| 感覚 | 音や肌触りなどを強く嫌がったか、反対に落ち着く刺激を繰り返し求めていたか |
この表は診断の採点表ではありません。たとえば、目を合わせるのが苦手な子もいれば、相手をじっと見つめる子もいます。大人になってから「人と話すときは目を見る」と学んだ人なら、今の様子だけでは子どもの頃の違いが分かりにくいかもしれません。
感覚についても、嫌だったことだけでなく、好きで何度も触れたものを思い出すと見え方が変わります。刺激を避ける反応もあれば、特定の音や感触に安心を求める反応もあります。食べ物の好みも振り返る材料になりますが、好き嫌いだけでASDとは決められません。子どもならではの気まぐれや成長の段階とも重なるため、ほかの様子と一緒に考える必要があります。
友達がいた、空想も好きだった。それでも?
「ASDなら一人遊びしかできない」「想像の世界で遊べない」と思っていると、女の子の頃の姿を見落とすことがあります。人と関わりたい気持ちはあっても関わり方を直感でつかみにくく、ほかの子の様子を観察して会話や遊びを学んでいたという記述があります。逆に、積極的に話しかけるものの、相手との距離や話をやめる頃合いに迷う子もいます。
ごっこ遊びをしていたことも、それだけでは判断の材料になりません。テレビの登場人物の言葉を何度も再現する場合もあれば、自分だけの豊かな空想の世界を長く楽しむ場合もあります。外からは同じように「遊んでいる」と見えても、その中身の体験は異なるのです。
関心の対象も、機械や数字に限りません。動物、物語、好きな人物や音楽などに深く入り込む例が紹介されています。注目したいのは何を好きだったかだけでなく、どんなふうに繰り返し触れ、どれほど細部を覚え、ほかの活動との間でどう時間を使っていたかです。
本を読むことが、人付き合いから少し離れる時間になっていた人もいるでしょう。物語から人間関係を学ぶ一方で、読書そのものが落ち着ける場所になる場合もあります。「友達が少ないから本を読んだ」の一言で片づけず、その時間が自分にとって何だったのかを思い出してみてください。
子どもの姿は、環境や成長の中で変わります。今は人前で自然に振る舞えても、昔から同じように楽だったとは限りません。次に見ていきたいのは、そうした工夫を身につけた大人が、仕事や人間関係のどんな場面で負担を感じるのかということです。
大人になって目立つのは「できたあと」の疲れ
職場では明るく挨拶し、会議で発言し、同僚との雑談にも加わっています。仕事が終わるまでは特に問題がないように見えても、帰宅した途端に誰とも話したくなくなることがあります。
こんな疲れ方をすると、本人も周囲も「仕事が忙しいから」「人付き合いが苦手だから」と考えるかもしれません。けれど仕事の量だけでなく、仕事中に何を意識していたかを振り返ると、別の面が見えてきます。
たとえば、会議の内容を理解しながら発言する順番を探し、相手の反応を読み取り、自分の表情にも気を配っていたとします。ほかの人には一つの「会議」でも、本人は同時にいくつもの課題をこなしているように感じていたかもしれません。
カモフラージュについて成人92人の経験を調べた研究では、特に繰り返し報告されたのが疲労でした。周囲に合わせるための集中や自己制御に力を使い、あとで一人になって回復する時間を求める人たちがいました。
ここで確かめたいのは、疲れの強さだけでなく、その前に何をしていたかです。
- 雑談では自然に話せていても、次の返事をずっと考えていませんか。
- 相手に合わせて笑ったり驚いたりするのを、意識して行っていませんか。
- 人と会ったあと、一人で何も考えずに過ごす時間を必要としていませんか。
- 周囲からは社交的だと言われるのに、自分では人付き合いを難しく感じていませんか。
もちろん、こうした経験はASDのない人にもあります。注目したいのは、どんな場面で繰り返され、生活にどんな影響が出ているかです。
「予定変更は平気です」と答えた、そのあと
急に会議の時間が変わりました。頼まれていた仕事も別の内容になりました。周囲に「大丈夫?」と聞かれて、「大丈夫です」と答えます。
実際、変更された仕事はこなせています。それでも頭の中では、朝から考えていた一日の流れを組み直し、何を先にすべきか考え続けているかもしれません。
ASDの女性についての調査では、仕事や家庭生活を送っている人の中にも、予定の変更や普段の手順が崩れることに強い負担を感じる人がいました。周囲には問題なく対応できると伝えながら、帰宅後に涙が出るほどつらくなる例も紹介されています。
「変更に対応できるか」と「変更がつらいか」は、分けて考えるとよさそうです。
大人になるまでに、自分なりの対処法を身につけてきた人もいます。予定を細かく考えておいたり、苦手な状況を避けたり、周囲の期待に合わせて行動したりします。こうした工夫がうまく働いていると、困りごとは外から見えにくくなります。
そのため、今の自分だけを見て「予定変更にも対応できるし、ASDではなさそう」と結論づけるのは早いかもしれません。
一方で、予定変更が苦手なことだけでASDと判断することもできません。幼い頃からどんなことに戸惑い、何を工夫して乗り切ってきたかまで振り返ることが大切です。
苦手な音がある一方で、好きな景色に夢中になる
感覚の特徴というと、音がうるさい、服の肌触りが苦手といった話がよく出てきます。
ただ、ASDの女性を対象にした調査では、特定の音や触感だけでなく、人混みのように多くの刺激が重なる場所で圧倒される経験も語られています。
一つひとつの音は我慢できても、話し声や周囲の動き、照明などが重なる場所では疲れてしまいます。人と会うこと自体は好きでも、にぎやかな場所に長くいるのは難しいという人もいます。そんなふうに、場所によって負担が変わることもあります。
おもしろいのは、感覚の鋭さが苦痛ばかりをもたらすとは限らないことです。
同じ調査では、自然の美しさや目に映る細かなものを強く楽しめることが、喜びとして語られていました。苦手な刺激を避ける一方で、好きな音や景色、感触を繰り返し楽しむ人もいます。
子どもの頃から好きだった音楽や本、動物などへの関心が、大人になっても続いているかもしれません。
ASDの関心は、対象の珍しさだけで分かるものではありません。人や動物、文学、音楽など、一見ありふれた趣味でも、関わり方や繰り返し方に特徴が見られる例が紹介されています。
好きなことを調べ始めると細かな情報まで覚えてしまう、お気に入りの作品を何度も楽しむ、人間関係についても物語や本を通して理解しようとする。そうした経験があれば、何を好きかに加えて、どのように楽しんできたかを振り返ってみてください。
「あるある」が10個当てはまったら、ASD?
ここまで読んで、「ほとんど自分のことだ」と感じた人もいるでしょう。反対に、当てはまる話とそうでない話が混ざっている人もいると思います。
では、いくつ当てはまればASDなのでしょうか。
実は、今回紹介した女性の特徴について、当てはまる項目の数から診断を判定できる根拠は確認できていません。
そもそも、女性に多いと紹介される特徴には、当事者の経験や観察から整理されたものが含まれています。女性だけに現れる特徴でもありません。
インターネットの「ASD女性あるある」は、自分の経験を言葉にするきっかけとして使えます。ただ、チェックした数を合計して診断の可能性を決める使い方には向いていません。
もう少し正式な質問票としては、AQ(自閉スペクトラム指数)があります。
英国のNICEの指針では、成人の評価を検討するときに10項目のAQ-10を使うことがあります。6点を超える(7点以上の)場合に詳しい評価につなげる目安とされていますが、7点以上だからASDと確定するわけではありません。
また、点数が低くても、それまでの経過などからASDが疑われる場合には、詳しい評価を提案することになっています。これは英国の指針であり、日本のすべての医療機関が同じ点数で判断しているという意味ではありません。
自己チェックを終えたら、点数の横に「自分の場合はどうだったか」を書いてみると役立ちます。
たとえば「人付き合いが苦手」に丸をつけるだけでなく、「会話はできるが、相手の表情をずっと確認していて疲れる」と書きます。「変化が苦手」なら、「急な予定変更にも応じるが、帰宅後まで気持ちが落ち着かない」と具体的にします。
こうして集めた経験は、診断名を自分で決めるための答え合わせではなく、診察で自分の困りごとを説明するための材料になります。
診察で話したいのは、チェックの点数より「暮らしの場面」
診察で役立つのは、特徴の暗記よりも、ある場面で何が起き、どう対処し、そのあとどうなったかという話です。
たとえば「人付き合いが苦手です」だけでは、どんなことに困っているのか伝わりにくいかもしれません。「相手に質問するよう心がけているので雑談は続きます。でも答えを考えながら表情にも気を配っていて、帰宅後は家族と話す気力が残りません」と言えば、できていることと負担の両方が見えてきます。
英国NICEの成人向け指針では、人とのやり取りや意思疎通の難しさ、決まったやり方へのこだわり、変化への対応や関心の偏りなどに加えて、仕事・学業・対人関係での困難も評価を考える材料としています。
仕事を続けながら何を補っているのか、友人関係のためにどんな準備をしているのか。結果に表れない努力も、具体例から見えてきます。
一方、同じような困りごとが、うつ病や不安症、強迫症、ほかの発達上の状態などと関わっている可能性も検討します。今の状態だけを切り取らず、子どもの頃から続いていることと途中から目立つようになったことを分けて考えるのが大切です。
昔の自分は、何を手がかりに思い出す?
「小学生の頃はどうでしたか」と聞かれても、すぐには答えられないでしょう。帰宅して本を開くとほっとした、その感覚だけが残っているかもしれません。
「友達はいた」なら、一緒にいるときは楽だったのか、話題を考えていたのか。「学校は休まなかった」なら、帰宅後はどう過ごしていたのか。そんなふうに結果の前後をたどります。
通知表や連絡帳、学校での記録が残っていれば、当時の様子を振り返る助けになります。家族に聞けるなら、「私、変わった子だった?」という大きな質問より、「保育園で集団遊びはどうしていた?」「同じ話や歌を何度も繰り返していた?」と場面を絞るほうが、具体的な話につながるかもしれません。
記録が残っていなかったり、家族に尋ねにくかったりすることもあります。NICEの指針でも、家族などからの情報や学校の記録は、可能であれば使うものとして挙げられています。昔の資料がそろわないことを、相談を始められない理由にする必要はありません。
本が好きだったこと、集団で疲れたこと、友達との距離感に迷ったことなどを思い出してみましょう。昔の出来事をすべてASDに結びつけず、経験をそのまま持ち寄ってください。
メモは「特徴・工夫・負担」を一組にする
受診前のメモは、気になる場面を三つほど選び、次のように整理できます。
- 場面:昼休みの雑談で、話に入るタイミングが分からなくなります。
- 自分の工夫:周りの人が使う相づちを覚え、相手に質問して会話を続けます。
- その後:会話はできてもぐったりして、午後は一人になりたくなります。
- 昔とのつながり:小学生の頃も休み時間は誰と過ごすか迷い、本を読んでいました。
予定変更や感覚の負担も、この形で書けます。
できることを隠したり、困難を大きく見せたりする必要はありません。うまくいった日もつらい日も、そのまま伝えてください。
春日メンタルクリニックでは、18歳以上のASD・ADHDの評価と診断のご相談を、問診を中心にお受けしています。言葉にしにくいことがあれば、初診前のWEB問診は簡単な記載でも構いません。診察で伝えたい内容を整理したメモを、画面のまま見せることもできます。
診断名を急ぐより、見落としていた負担を見つける
「普通にできている」と思っていたことが、実は努力に支えられていたと気づく人もいるでしょう。
ただ、その気づきをすぐに「私はASDだ」という結論に変える必要はありません。似た経験をする理由は一つではなく、診断では幼い頃からの経過や今の生活、ほかの不調との関係も確かめます。
昔「問題ない子」だったと言われても、今のつらさは消えません。人に見えなかった工夫や疲れも、言葉にしてよいのです。
「何ができるか」と同じくらい、「どうやってできるようにしてきたか」も大切です。 その視点で子どもの頃から今までをたどることは、チェックの丸の数よりもずっと多くのことを教えてくれるかもしれません。
よくある質問
Q. 女の子の頃、友達が多くてごっこ遊びも好きでした。ASDではないのでしょうか?
友達の人数や遊びの種類だけでは判断できません。人と関わるためにどんな工夫をしていたか、ごっこ遊びをどのように楽しんでいたかも振り返る材料になります。
Q. 「女性のASDあるある」がたくさん当てはまりました。検査を受けるべきですか?
当てはまる数だけで診断や受診の必要性は決まりません。日常生活で繰り返す困りごとや、子どもの頃からの傾向を具体的に書き出しておくと、評価について相談するときに役立ちます。
Q. 子どもの頃の記録がなく、家族にも聞けません。相談できますか?
学校の記録や家族の話は、あれば参考になる情報です。必須の持ち物とは考えず、自分で覚えていることと、今の生活で困っている場面から伝えてみてください。
参考にした資料(要約・再構成。原文の転載ではありません)
- サラ・ヘンドリックス著、堀越英美訳『自閉スペクトラム症の女の子が出会う世界』河出書房新社、2021年。
- Laura Hullほか「Putting on My Best Normal: Social Camouflaging in Adults with Autism Spectrum Conditions」Journal of Autism and Developmental Disorders、Springer、2017年。
- Meng-Chuan Laiほか「Quantifying and exploring camouflaging in men and women with autism」Autism、SAGE、2017年。
- Meng-Chuan Laiほか「Sex/Gender Differences and Autism: Setting the Scene for Future Research」Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry、2015年。
- NICE『Autism spectrum disorder in adults: diagnosis and management』(CG142)、2012年(2021年更新)。