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月経前不快気分障害(PMDD)の発症メカニズム:ホルモンとストレスの関係性

[2024.12.26]

はじめに

PMDD(月経前不快気分障害)は、主に月経周期に関連して起こる精神的・身体的症状が特徴的な疾患です。その原因は完全には解明されていませんが、研究の進展により、性ホルモン神経伝達物質、さらにはストレスが重要な役割を果たしていることが分かってきました。

本記事では、PMDDの発症に関わるホルモンや脳内物質の働き、ストレスや性格傾向との関係について詳しく解説します。専門的な内容も含みますが、わかりやすくまとめていますので、ぜひ参考にしてください。

PMDDの原因はどこにある?

PMDDの発症原因については完全には解明されていませんが、以下の要因が関与していると考えられています。

1. 性ホルモンの変動

月経周期に伴うエストロゲンとプロゲステロンの変動が、PMDDの主な要因とされています。

2. 神経伝達物質の働き

特にセロトニンGABAがPMDDの発症に深く関与していることが示唆されています。

3. ストレスと性格的要因

ストレスの多い環境や神経症的な性格傾向が、症状の悪化に影響を与えるとされています。

1. 性ホルモンの変動とPMDD

女性の体内では、月経周期に伴って性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)が大きく変動します。このホルモンの変動が、PMDDの主な原因であると考えられています。

エストロゲンとプロゲステロンの役割

エストロゲン

女性の健康や精神安定に寄与する「善玉ホルモン」とされています。エストロゲンが減少すると、セロトニン(気分を安定させる神経伝達物質)が低下し、不安感や抑うつ感が強くなります。

プロゲステロン

妊娠をサポートするホルモンですが、PMDDの発症においては「悪玉ホルモン」として作用することもあります。特に、プロゲステロンの代謝産物であるアロプレグナノロン(ALLO)が注目されています。

アロプレグナノロン(ALLO)とは?

ALLOの特徴

ALLOは、プロゲステロンが体内で代謝される過程で生成される物質です。GABA受容体を活性化し、不安を抑える働きがある一方で、一定の濃度に達すると逆に不安感や気分の不安定さを引き起こすことがあります。

PMDDとの関連性

PMDD患者では、ALLOの濃度が月経前に急激に増加するため、感情の不安定や強いイライラが引き起こされると考えられています。

2. 神経伝達物質とPMDD

PMDDでは、性ホルモンの変動が神経伝達物質の働きに影響を及ぼします。特に重要なのがセロトニンGABAです。

セロトニンと気分の関係

セロトニンの役割

セロトニンは、気分を安定させる神経伝達物質で、不安や抑うつを軽減する働きがあります。

エストロゲンとの関係

エストロゲンが減少すると、セロトニンの生成が低下し、PMDDの症状が悪化します。これが、月経前に気分が不安定になる理由の一つです。

GABAとALLOの関係

GABAの役割

GABAは、脳内の興奮を抑える神経伝達物質で、リラックス効果があります。ALLOはGABAを活性化することで不安を抑えますが、その作用が過剰になると逆効果となることがあります。

3. ストレスと性格的要因

ストレスの影響

PMDDとストレスの相関

ストレスが多い環境では、PMDDの症状が悪化する傾向があります。例えば、仕事や家庭でのプレッシャーが強いと、PMDDの症状がより顕著になります。

幼少期のトラウマ

幼少期に家庭内での暴力や親子間の不和などを経験した人は、PMDDを発症しやすいという研究結果があります。

性格的要因

神経症傾向の強さ

PMDD患者は、神経症的性格(感情の起伏が激しい、緊張しやすい)を持つ傾向が強いとされています。

外向性の低さ

社交性が低く、孤立しがちな性格も、PMDDの発症リスクを高める要因となります。

4. 腸内環境とPMDDの新しい視点

近年の研究では、腸内環境とPMDDの関連性も注目されています。

腸内細菌の役割

  • PMDD患者では、GABA産生菌やBDNF(脳由来神経栄養因子)を増加させる細菌が減少しているという報告があります。
  • 腸内環境を整えることで、症状が軽減する可能性が示唆されています。

PMDDの発症メカニズムを理解することの重要性

PMDDの発症メカニズムは単純ではなく、性ホルモンの変動、神経伝達物質の働き、ストレスや性格的要因が複雑に絡み合っています。しかし、これらを理解することで、PMDDの対処法や治療法が見えてきます。

次に取るべきステップ

  • 症状を観察する症状日記をつけることで、自分の症状と月経周期との関係を把握できます。
  • 専門家に相談する婦人科や精神科の専門医に相談し、適切な治療を受けることで症状を軽減できます。
  • ライフスタイルを見直すストレス管理や腸内環境の改善を取り入れてみましょう。

おわりに

PMDDは、性ホルモンやストレス、性格的要因などが複雑に絡み合った疾患です。しかし、発症メカニズムを理解することで、自分の症状に適した対処法や治療法を見つけることができます。

「自分の気分の波を理解し、コントロールする」ことを目指して、一歩ずつ進んでいきましょう。PMDDは、孤独に戦う必要のない疾患です。適切な治療とサポートを受けることで、日常生活をより快適にすることができます。

執筆・監修:精神保健指定医 野口晋宏

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